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島崎陶人ギターサロン:セゴヴィア物語






●セゴヴィア物語の改訂版
これは、私(島崎陶人)が、インスピレーションを得て書いたセゴヴィアの物語風伝記です。
セゴヴィアが若い頃に高熱を出して生死の間をさ迷っていた事実があります。
その時、つまり意識を失っていた時に経験した内容なので誰も知る人はいません!
もちろんセゴヴィア本人も知らない伝記です。

そのつもりでお読みください。


セゴヴィアは「バッハはヒマラヤである」と言っています。
この言葉の意味は大変深いのです。

まずヒマラヤです。
スワミ・ラーマというヨガの本家本元の方がいます。
この方の自叙伝みたいな本があるのですが、その中に
・・・・ヒマラヤでの朝の環境は静かで平穏で大志を抱く人を自然に沈黙へと導く。
これがヒマラヤの人々が黙想者になっていく理由です・・・・
という一文があります。
この一文とセゴヴィアの言葉が私の心の中でピッタリ一致したのです。
その瞬間に閃いた内容を思い付くままに書きます。
  (閃きは一瞬ですが、書くとかなりの量になります)

セゴヴィアはヒマラヤという神聖な場所とバッハとが一致したのです。
バッハをギターで演奏したい方に、私から・・
「美を生じる源!」
そういう気がまえを感じることからスタートしてほしいのです。
安易な興味から、あるいは「経験しとかな!」という
安っぽい理屈からは弾いてほしくないのです。

ギターという楽器の特性を根底から感じとって、動きを研究してから、
ま、少なくとも「音」があるレベルに達してからスタートしてほしい。

スタートは「美」に対する態度。
好みとは次元が違います。

最初は身体の「動き」
弦楽器の動きとピアノの動き。
このことからセゴヴィアはスタートしたのです。
そして、14歳にして両方の楽器の動きを解明していました。
そこから、ギター演奏における身体の動きを考え出したのです!!
指先を器用に動かすことから始めたのではありません。

「美」に対する意識。
「楽器」に取り組む姿勢。
そして、具体的な練習方法!
全てが、誰も通ったことのない道を切り開くことにしたのです。


●二者択一
「音」を出す動きには、弦楽器特有の動きと、ピアノ特有の動きの2種類あります。
この動きから、ギター特有の動きを抽出することに成功したのが17歳。
たった3年で完成させたのです。

・・・・・こんなこと、どこにも載っていませんよ!念の為。・・・・・

その3年間に成し遂げたことを、40年かけて発見だけしたのです、この私が。
セゴヴィアさんは、発見だけなら数ヵ月です。それを完全に自分のモノとするのに3年弱!!!
この理屈で考えると、私が自分のモノにするには、単純計算でたった400年ぐらいです。

次に「音楽」を「全ての美の源は?」という問題にすり替えました。
そして、自分の生まれ故郷の美と、空想の美世界の2つを調和させることから始めました。

まだまだ幼いアンドレスは雲の流れを見て
「最愛の人のメッセージ」として受け取りました。
そして、
「人生の通り道を学ぶ前に、自然を愛する訓練をするべきである!」ことを悟ります。
さらに、人生の痛みや不幸は、夜明けと共に消え去る、ことに気付きます!

・・・・なんちゅう子供やねん!

人間が自然の溢れんばかりの奥深さを感知することを学ぶ時、
思考が自発的に溢れて来ることを感じとったのです。

・・・・こんな事を何故私が知っているのでしょうね。
全て、メッセージとして受けたのです!


●目覚め
少年アンドレスは、ある日、小川に沿って歩いていました。
歩き疲れて、岩場に腰をおろして物思いにふけっていると、
すぐ近くの岩と岩の間に青色の美しい花を見つけました。
アンドレスは心の中でささやきました。

「青いお花さん、どうしてここにたった一人でいるの?
 あなたの美しさはもっと沢山の人に見てもらうべきです」
すると、そよ風のように心の中で声がしました。

「あなたは、私がひとりぼっちで寂しいと思ったの? 
 一人ぼっちということは自然と一体化していることなのよ」
「では、もし私が今、あなたを引きぬいてくしゃくしゃにしたら?」
「ふふふ、それは私の命の目的が果たされたこと、人間は哀しく感じるかも知れないけれど、私たちは嬉しいのですよ」

そして、次の瞬間

「美は称賛されるものであって、使われたり、所有したり、破壊するものではありません」
という声が聞こえました。

気が付くと、辺りはうす暗く、暮れゆく空に星が輝き始めました。
流れる雲が時々、その星を隠してしまいます。
「あれ? 星がかくれんぼしてる!」
その時、
・・・・・・アナタは王です!、音楽の国から来た王です・・・・・・


すぐ近くを流れる小川を見ると、まるで水晶のように輝いています。
手ですくって一口飲み干しました。
「さっきまでの自分ではない!」
まるで聖なる水が身体に入ったように感じたアンドレスは
猛烈にギターが弾きたくなりました。

王様! 私が? いやそうではない・・・・ギターか? ギターだ!

ギターが楽器の王様なら・・・・・

初級用のコストのエチュード「ト短調」を弾き始める。
「違う!」これは昨日弾いたのと同じだ・・・・
最初のGはこのポジションしかない。
しかし・・・・・
右手の弾き方は?
とりあえず16種類ある・・

次のB♭は?
DとEにある。
Eを使うと、左の指使いは? G、B♭だけで、とりあえず8種類ある・・・・

次のDは?
たった3つの音の動きに、いったい何通りの弾き方、感じ方があるのか!
しかも、ピアノ・フォルテや右手の移動を入れたら・・・・・
ダメダ!
ほとんど無限だ!?!?

アンドレスは15分ほど3つの音と戦いましたが、結論は出ません。

考えるのを中止。
感じることに切り替えました。
すると・・・・・・・「!!!!!」
何かが閃きました。
そして、
ごくごく普通の指使い(310)右手もPia
昨日と全然違う!?!?

たった15分の試行だけで・・・・
アンドレスはその次のフレーズも同じようにイロイロ試して弾きます。
そして、始めから普通の指使いと普通の弾き方で演奏しました。
「これか!これが練習するということか?!」

夢中で2小節目も3小節目も、そして4小節弾き切った時、
・・・・・・あなたは王様です・・・・・・・

さっき小川のほとりで聞いた声が再び聞こえます。
「音符は星かも知れない・・・・・」


●「声」が聞こえる
14歳のアンドレスは、よく 「声」を聞きました。
頭の中で自分ではない「声」がします。

・・・・私が王様・・・・

という意味が解かりません。

ギターの練習で疲れると、自然に瞑想状態に入っているのが常でした。
そんな時に、よく「声」が聞こえました。

・・・・人の心は、無知を払いのけるまで思い違いに支配される・・・・

その頃、ヒマラヤに住む雪男の伝説が世界中に広がっていました。
もちろん雪男などいません。
熊の足跡を無知である人が「大きな人間の足跡」=雪男!
と思い違いしてしまいました。
この手の思い違いには人間の欲が隠れています。
混乱した心は間違った捉え方を考え出します。

アンドレスは夜中、静寂の中で、静かにギターの音を出すことにしました。
知識からではなく、自分の耳だけを頼りにギターの「音」に耳を傾けました。
一瞬で消える「音」に形や色、香りまでもあることを感じ取ります。
しかも、その源になっている右手のタッチは「動き」から発生しています。
決して「想い」や「気合い」などではありません。
「右手は弓を持つ形」「左手はピアノを弾く形」
アンドレスはこれを出発点とすることに決めました。

・・・・全ての恐怖から自由になることは、悟りの道の1つです・・・・

アンドレスはギターを弾くこと、音楽の道で恐れることは何もありませんでした、14歳の時点では。
従って、この「声」の意味は、まだ解かりません。
「いったい、なにを恐れるというんだろう??」

真っ暗な夜道。物音1つしない闇の世界。
小さなランタンを頼りに一晩中歩いたら・・・・・
目的のある旅なら、妄想や目の前の恐怖は恐れない! しかし、現実は??
怖い物・・・・?  
甘い言葉や誘惑は?
本当に怖いのは、自分自身の中から起こることを14歳のアンドレスは知りません。

・・・・偉大な人は恐れない!・・・・・

またあの「声」がしました。
突然、彼は自分に試練を出すことにしました。それは、全く予期せぬ事態でした。
まるで、自分の中にもう一人師匠がいる!そんな感じです。
師匠が弟子に試練を与える時は、弟子の出来そうもないことは言いません!
出来るからこそ試練として出すのです。
「恐怖」に打ち勝つためのテストなのです。このテストは越えねばなりません。
テストをされる側は、まだ「学生」です。テストを乗り越えれば「弟子」になります。

・・ソルの全ての練習曲から20曲選んで、ギタリストの練習曲集とせよ!


●信頼と決意
信頼と決意。この2つは「王」となるべき人には必要不可欠の要素です。
・・「信頼」・・
アンドレスは自分自身が師匠であり弟子でした。
従って、この二人の間の信頼関係は不動のものです。
・・「決意」・・
これは、ギターの「王」。いや音楽の「王」となる決意です。

私はセゴヴィアさんから直接心に響く「声」を何度か聞きました。
こういう経験は誰にでもある!と思っていたのですが、
実際には、あまりないようです。
つい最近そのことが解かりました。
経験のない方の多くは「そんなことある訳ない!」と決めているようですが、
それは悲しいことです。
おそらく教育がそうさせたのだと思います。
一種の洗脳です。
私のHPに来て、少しでも私のメソッドを実践した方は、この「偶然」を決して無視しないでください。
このHPに来たこと、今読んでいるセゴヴィア物語、このことを「必然」と感じて、真剣に読むことをお願いします。

「決意」は全ての不満と障害を透かして見せてくれる力です。
この決意の力が中断されない時、人は必然的に願った通りに目的を達成します。
14歳のアンドレスは、たった数か月で、目的を達成しました!

ソルの20の練習曲を選曲し、指使いを付けたアンドレス。夢中で過ごした数か月。
身体を優しさで包むような香りがアンドレスを夢の世界に誘い込みました。

「たきぎをください・・・・」
確かにそう聞こえました。
誰かがささやいているのか?
「あなたは誰です?」
心の中で問いかけました。
「私はもう一人のあなた」
「すると、・・・・私はたきぎを欲しがっている??」
「そうですよ。燃やしましょう」
「燃やす? 何を?」
「あなたは王の道を歩き始めました」
「ソルですね?」
「歩き始めたからには、過去から解放されなくてはなりません」
「それとたきぎとは?・・・・」
「それには、まず否定的な考えを知識の炎で燃やさねばなりません。
知識は否定する心を燃やすものなのです」
動物に炎は必要ありません。否定するものがないからです。
人間は過去に生きようとします。これが苦悩の原因です。
「あなたが持ってきた、たきぎを燃やせば、あなたを悩ませる過去を消し去り。光の道を歩き始めるでしょう」

アンドレスは、この後約1週間近く高熱を出して倒れます。
しかも、家でではなく道端で倒れたのです。


●孤独と幻想
アンドレスは突然の高熱で道端に倒れてしまいました。この時、偶然通りがかった老婦人に助けられたのです。
彼女は自分の家に連れて帰り、アンドレスを熱心に介抱しました。

外見では,高熱でうなされている時、実際は、自分の内側にある真実の自分と話していたのです。
外側にある「何か」に頼るようになると孤独になります。
しかし、内側にある真実の自分と会話することとは、絶えまない気付きを意味するのです。
孤独は病気です。外側に頼ることを「無知」といいます。しかし、世の人は、無知という言葉の本当の意味を知らなかった・・・。

王となる人は自分自身が完全であることに気が付かなくてはなりません。
人間は本来完全な存在なのです! それが、教育により、言葉を使うことで不完全に育ちます。
そして「束縛」されることで、無知になって行くのです。
自由を得るには、束縛されるものを燃やす!
悟りを開く者。王となる者。人の上に立って指導する者。
それらの者はみな一度は高熱を発するのです。
それは、正しい知識で否定的な考えを燃やしているのです。

傍目には高熱と戦っているように見えますが、実際は全く違います。
老婦人はこのことをよく知っていました。だから、慌てることなく。医者に見せることもなく。
ただ、静かに介抱していました。
もちろん彼が死の淵から復活することを知っていました。

傍目には高熱で1週間寝ていただけですが、この間に15歳のアンドレスは
人の何倍もの人生経験をしました。

彼と彼の師である彼・・ややこしいので本人をアンドレス、師匠をセゴヴィアと呼ぶことにします。
なんせ、この物語には毎回のように二人が登場するので・・・・

アンドレスとセゴヴィアが森のようなところを歩いていると、
突然セゴヴィアが大きな木に登り、そこで自分の身体を木に縛り付けました!
アンドレスは訳が解からず、まごまごしています。
セゴヴィアは叫びました「おおい!君は私の弟子か?」
「そうです」「なら、私を助けてくれ」
「ええ? 何が起こったのです?」
アンドレスは躊躇しました。その木がとても危ない物のように思えたからです。
もし、自分もセゴヴィアと同じようになったら・・・・誰が助けるのだ?
「私は、この木の幹に捕まった。私の足を持って、渾身の力で引っ張ってくれ」
アンドレスはセゴヴィアの足を必死で引っ張ってみましたが、ピクリとも動きません。
しかし、木の幹が人間を掴むなんて・・・・・
しばらくしてセゴヴィアが笑いながら言いました。
「これは幻想です」
アンドレスにはまだ意味が解かりません。

幻想はマヤとも云います。マヤは宇宙の母である。
人の気づきに焦点を合わせることによって、眠っている力(幻想)は目覚め、
意識の中に向かってエネルギーが降り注ぐのです。
この力に触れると一瞬で意識の最高レベルに達します。
この力に目覚めない人は永遠に無知なのです。


●孤独と幻想・・・・続き
アンドレスは、まだセゴヴィアの云うことが理解出来ません。
セゴヴィアは続けます。
「我々の(進む道での)障害は現実世界なのです。」
「存在しないもの(神や自分の心)を信じるための源を自由に操れば、
その時、本当に存在するものが現れる」

束縛の最も強いものは愛着によって作り出される。

「え?愛着は悪ですか?」
「愛と愛着は全く別のものです」
愛着とか欲望を持っていると、それは幻想の源となります。
愛着から自由になった者は欲望を霊的成長に対して向ける。
幻想の束縛からも解放される。

アンドレスはますます頭が混乱してきました。

「愛着が少なくなればなるほど、力は内へ内へと向かいます」
「それなら解かるかも知れない」
「今はこれぐらいにしておきましょう」

音楽(ギターを演奏)する時(練習する時)繰り返し同じことをしたり、
伸びもしない音をレガートという言葉を使って音を伸ばす、などは単なる「勘違い」
人間の現実世界は「ウソ」と「勘違い」の世界。
出た音をそのまま聞く。これだけでいい。
自分の出す「音」以外で音楽は語れない。
意識を「音」の中へ中へと向けよう。

アンドレスとセゴヴィアは会話をやめ、ただ歩いていました。
意識を音の中へ向ける・・・・・・
ギターの音・・・・・
本当のギターの音??
アンドレスは普段自分が弾いているギターの音が気になり始めました。

「セゴヴィアさん、本当のギターの音はどんな音なのです?」
アンドレスはもう一人の自分(師匠)に訪ねました。
「いいですよ、聞かせましょう」
「本当ですか!」
「もちろん! ところであなたは準備が出来ていますか?」
「え? 本当の音を聞くのに準備が要るのですか?」
「ソルの作品を研究したのは本当の音を聞く準備ではなかったのですか?」
「あ! あの声は・・あなただったのですね!」
「そうです。あの練習によって、あなたはギターの本当の音を聞く準備をしたのです」
「では、なぜ、今そのことを私に聞いたのですか?」
「テストしたのです」
「え??テスト・・・」
「そうです。テストとは、何かを成し遂げた後、それが何なのか?を感じとることなのです」
「内へ向かう・・・・ことですね?」
「そうです。今回のソルの<20の練習曲>を選んで指使いを考える作業は
 本当の音を聞く準備なのです」
「解かりました! では、改めて云います、準備出来ました。聞かせてください」
「では、そこに座りなさい」
歩くのを中断して、二人は道端に座りました。
それにしても師匠はギターを持っていないのに、どうやって音を出すんだろう・・。

「さて、アンドレス。目を閉じて。1回しか聞かせない。それで全てを感じとるのだ」
「解かりました」
それから、しばらくの沈黙の後・・・・

・・・・・・♪〜・・・・・・

「この音は!」
この音は、たった1つの音で満足出来る。
この音なら、音楽は要らない・・・。

「幻想です!」
「え?・・・あ!  これは幻の音・・・」
「そうです、私は今ギターを持っていません」
「でも、確かに聞こえました・・・」
「そうです。あなたは目を閉じて、聞いていました」
「はい、あなたが目を閉じなさいと言われましたから・・」
「つまり、実際に演奏している姿を見ていません。」
「では、あの音の正体は?」
「自分が作りだした音です」

理想の音という言葉はあっても、そのような音は存在しません。
楽器が変ると音色も変わる。
同じ楽器でも演奏者が違うと、音色も変わる。
では、音楽は何を基準に出来ているのですか?

音程、音量、音色、これらは絶えず変化します。
まるで水のように・・・・。
理想の水!? 理想の空気?! 理想の・・・・・
それらは、人間の勝手な想像(妄想)の産物です。
音楽の3要素などという言葉も単なる言葉の遊びです。

では、何を基準に音楽すれば?
直接体験です。
人から教えてもらったり、知識として得たものは・・・・後悔なのです。
後悔? 
そうです。
人は自分が後悔したことを他人に教えるのです。

・・・・・・・・・
待って下さい。少し考えさせてください。

・・・・準備が出来ていますか?・・・・
セゴヴィアの質問した言葉が蘇ってきました。
アンドレスは、ソルの作品から20曲を選んだ数か月間を振り返りました。
そして、自問自答しました。

「20曲を選び、その順番を決める時・・・・そうか!」
理想の音が幻想なら、音楽する時、楽譜に書かれてある音が唯一ではない!
まして、指使いなどは毎回変化する。
音色が違えば、演奏も変わる・・・・・
順番など毎回変わる・・・・(アンドレスは曲順にも意味があると考えていた・・)
出た音で・・・・・出た音?!
「そうか! 切ればいい!」


●直接体験
音を切る!
これこそ音楽の直接体験。

アンドレスとセゴヴィアの会話は自問自答ですが
意識が内へ向くと、
他人に同意を求めたり、外に向かって裏付けをとったりしなくなります。
直接体験することで誰の同意も必要としなくなります。
音楽の直接体験とは・・
「音を切って出す!」

たったこれだけで、音楽の炎が燃え始めるのです。

・・・・自己信頼・・・・

自分を信用出来たら、真実は内側からやってきます。
それにしても・・・・「音を切る」たったこれだけを実行するだけなのです。

と、その時、アンドレスの耳に不思議な響きが入ってきました。
アンドレスはその響きを繰り返して口から出してみました。
バッハのようで、ヘンデルのようで、・・・・
スケールのようで、アルペジオのようで、・・・・
まるで全ての音楽作品の根源のような響き。
昔々に聞いたような響き・・・・・

・・・・・この響き、旋律はあなただけのものです・・・・・

・・・・・この響きは誰にも伝えてはなりません。あなただけのものです。・・・・・

そして、アンドレスは猛烈に練習にとりかかりました。

彼の演奏する響きの奥には絶えず、彼にしか聞こえない別の響きがありました。
和音の時も旋律の時も、休んでいる時でさえ身体の奥で鳴っています。
そして、不思議なことに、この響きがある間は疲れませんでした。

身体の中で鳴る不思議な響きがなくなると、彼は練習を中断しました。
その響きが鳴りだすと、自分の意志とは別に身体が反応してギターを取ります。


●疑似体験
当時は楽譜といってもすぐに手に入る訳ではありません。とても高価で貴重な物でした。
しかし、不思議なことに、アンドレスの前にはいつも新しい楽譜がまるで「次は私の番です!」とでも言いたげに置いてあります。
もちろん彼はそんなことにおかまいなく弾き続けました。
ギター以外の曲ももちろん弾きました。この世に存在するあらゆる曲を弾いてしまったのです!

「随分沢山の曲を弾いたねえ」
「その声は!? 師匠」
「君は全ての曲を弾き切った」
「それは・・・・それは、どういう意味です?」
「文字通り、この世にある曲の全てを弾いたのだよ。たった10年でね」
「10年! 10年も経ったのですか?」
「15歳のアンドレスがたった10年で全ての曲を弾いたのだよ」
「すると、私は、今25歳?!」
「いや、それは違う、まだ15歳だ」
「・・・・・・!! 幻想?」
「その通り!」
「これは試練ですか?それとも・・・・・」
「いいや、通過点にすぎない」

これからは君の前にいろんな人が現れる。その人達と語り合ったり、演奏を聞いてもらったり、
演奏を聞かせてもらったり・・・とても楽しい時をしばらく過ごすのだ。

最初に現れたのは大男でした。彼はいきなり大声で言いました。
「おい! そこのチビ! 美味しそうだな!」
・・・・あれ?確か、知らない人と楽しい時を過ごすはずだが・・・・
「あなたは誰です? 私がおいしそうだって?」
「ワシは腹が減っている、お前はうまそうだから食べてやる!」
・・・・たいへんだ! どうしたらいい??
「私はマズイですよ! 食べたらきっと腹をこわします」

<あらあ〜この子おいしそうねえ〜>
・・・・またややこしいのが現れたぞ!なんだこの女性は?  ・・・・そうだ!
「これは?! なんて美しい女性なんだ!」
<おや!? 嬉しいこと云ってくれるわね、それじゃあ、助けてあげようかしら>
「おお!姿だけでなく心も美しい!」
<ホホホホ、口がうまいわねえ。それじゃあ〜っと>
「おい!ねえちゃん!ワシのごちそうを横取りするのか?」
<なんだいお前は、ずいぶん図体の大きな男だねえ>
「ワシは腹が減っている。そこのチビを食べる!」
<お待ち! 今食べるより、もう少し後の方がおいしくなるのよ>
「おいしくなるなる? どうして?」
<この子はギターを弾くようよ。そしたら同じ曲を1001回弾かせると、それはそれは美味になるのよ>
・・・・なんだって!! 同じ曲を1001回も弾かせるつもりなのか!
<ぼうや。この曲(バッハのフーガ)を1日1回、1001日毎日弾くのよ!>


●反復練習
ということは・・・・・
1001日までは大丈夫。その間にはなんとかなるだろう・・。
「解かった! じゃあこれから弾きます」
・・・・・・おっと、ただ弾くだけじゃあダメよん。毎回違う発想で弾くのよ〜〜ん。

なんだって、毎回発想を変える! ・・・・こりゃ難題だ。
・・・・・・いいこと、同じこと弾くと、その場で食べてしまうからね!
「解かりました」
「ワシはそれまで寝て待つとしよう!」

アンドレスは静かにフーガを弾き始めました。

1回目は音を丁寧に出すことにしました。
弾き終わると・・・・謎の女性は
「つまらない演奏ね、めんどうだから食べちゃおおかしら!」
ヤバイ!
「待ってください! 今のは音を確かめただけです。次からは曲にします!」
・・・・・・本当? じゃあ、今回だけは許してあげるけど、次はちゃんと弾いてよ。

ちゃんと弾けだって。今だってちゃんと弾いたのに・・・・・
「はい。明日は必ず・・・・」
さあ、どうするアンドレス。綺麗な音で丁寧に弾いたら<つまらん>と言われたぞ。
よし、反対のことをしてみよう・・・。

次の日、アンドレスは昨日の全く逆の演奏をしました。
音を切って切って切りまくり、音色もガラリと変え、でかい音と小さな音をゴチャゴチャに使いながら弾きました。

・・・・・・へ〜〜、昨日よりはマシね。でも・・・・やっぱりつまらないは。同じテンポだもの、食べちゃおおかしらああ〜。
ダメダメ!
「待ってください! 今日のはイロイロ試したのです。明日はテンポも大きく変えて弾きますから・・・

・・・・・・本当ね?! 同じテンポで弾いたら、食べてしまうからね・・。

「いったいこれはなんなんだ!確か師匠は楽しい人と10年間過ごす・・・・と云っていたのに」

こうして毎回毎回謎の女性に文句を言われながらも、アンドレスはフーガを弾き続けました。
そして、今日は900回目になりました。
「だめだ、もうネタ切れだ。師匠〜〜〜!」
<何をしているアンドレス! 私と一緒に10年間休みなくギターを弾いた日のことを忘れたのか??
「その声は! セゴヴィア。 あの時は、毎回違う曲だったから・・・・・!!」
そうか! あの不思議な響きか?!

アンドレスは自分だけが知っている、あの不思議な響きを思い出しました。そして、その響きを心で鳴らしながら演奏を始めました。








・・・・・・おお! なんという心地良さ!
謎の女性は感激して言いました。
「今のは素晴らしい演奏ぢゃ!」
ずっと寝ていた大男が起きてきて云いました。

「そうか、なぜ今まで気が付かなかったのだろう?」
「恐怖で忘れていたのだよ!」
「師匠! そうか、こんな簡単なことを・・・・」
「いいや! 決して簡単なことではないのだよアンドレス」
「でも、これで、もう安心だ。この響きがある以上は何回弾いても新鮮だからね」

こうして、940回目を迎えた日。
一人の老人が近づいてくるのが見えました。

その老人が近づくと、大男と謎の女性は少し席を譲る仕草をしました。
おや? この老人は・・・・・
「ハロー、アンドレス。私は、ルイス、ミラン!」
・・!! この方が!  
「始めまして、ミランさん!」
・・・・・・さあさあ、いつものようにフーガを弾いて。・・・・
謎の女性がせかせます。
「ぼうず!今日はどんな演奏をしてくれるんだい!」
大男は食べたいことを忘れてアンドレスに云いました。
ルイス・ミランと名乗った老人は、少し離れた場所に座ると、目を閉じて、まるで瞑想にでも入ったようにして演奏を待っています。

気を集中して、不思議な響きを心に浮かべ、静かに左手をBに持っていきました。
そして、音を出す前に軽く2回ビブラートをかけ、Eの音から弾き始めました。

・・・・・・あら!今までGで始めていたのに、器用なこと・・・・
「おお! 調を変えてきたか!」
毎日聞いている二人は、アンドレスがいつも弾いているgマイナーではなく
аマイナーから始めたのに少し驚いた様子です。
しかし、これは相当前からアンドレスは秘かに試みていました。

演奏が終わると、大男と謎の女性はアンドレスに抱きついてきました。
・・・・・・酢ばらしい! スーばらしい!・・・・
「これまでで最も素晴らしい!」
二人が祝福してくれました。
ミラン老人も目を開け、アンドレスをじっと見て言いました。
「やがて、アンドレスは演奏家の王となろう!」


●そして、バッハが
それから毎回一人づつ聞き手が増えていきました。
そして、今日は記念の1000回目。
その日はすでに60人の音楽家と謎の女性、そして大男が・・・・全員正装で待ち受けます。
アンドレスは緊張しました。
「1000回目という節目だからか? みんな正装で待っている、あの大男でさえ?・・・」
と、観客が静かに動き出しました。
右手と左手に少し移動して、アンドレスを中心に真ん中に道が出来ました。
その真ん中に出来た道を、ゆっくりと歩んでくる61人目の男。
「ヨハン・セバスティアン・バッハ!」
アンドレスから見て左手にバッハが、右手に謎の女性が座りました。
最初に現れた音楽家、ルイス・ミランが立ちあがりました。
「アンドレス! フーガを弾く前に、私の作品を2〜3曲弾いてくれないかい?」
「いいですとも、喜んで・・」
一礼すると、6つのパバーナの第1番をゆっくりと弾き始めます。
パバーナを3曲弾き終えると、拍手が沸き起こりました。
アンドレスは起立して深々とお辞儀をします。そして、「フーガを演奏します」
しっかりとした口調で言うと、ギターを構え、いつものようにBに右手も左手も薬指を準備しました。
その時、遠くで小川のせせらぎの音が聞こえました。

バッハを前に1000回目を弾き切ったアンドレスがホット一息入れていると。
・・・・・・あと1回で、とても美味しくなるはずよ!・・・・・
「ヤバイ!私は食べられるのだった!」

「今が食べごろじゃあないのか?」大男が云いました。
・・・・・・あと1回で完全よ!・・・・・・と謎の女性。
「食べられる・・・・」

ブ〜〜ン!ブ〜〜ン!ブ〜〜ン!
「何だ! この音は? わあ、蜂だ!」大男は叫ぶと逃げ出しました。
1001回目の演奏をする朝になりました。
その日は、驚いたことに近くにある大きな木に蜂の巣が出来ていて、
そこらじゅうに蜂が飛んでいるのです。
・・・・・・もう嫌だねえ! 私は蜂が大の苦手、アンドレス! なんとかして。・・・・・・

しかし、アンドレスも蜂は怖い。すると・・・・
<大丈夫! 蜂に話しかけてごらん!>
「その声は? セゴヴィア・・・。でも、蜂の言葉は?・・」
<動物は言葉ではなく直接心に届くから大丈夫>
「直接?! でも何を話しかけるの?」
<・・・・君が1001回目の演奏をし終えるまで静かにしていてもらうのだ。>
「そんなこと、私に出来るかなあ?・・・」
<出来るかなあ?ではない。するのだ!>
いつになく厳しい語調です。
「解かった。あなたが、そう云うならきっと出来るのでしょう」

・・・・・・アンドレス! この蜂をなんとかしてちょうだい!・・・・・
「マダム! 私がこの蜂を静かにさせたら、私を食べないでください」
・・・・・あら、交換条件ね。・・ではこうしましょう、もしあなたの最後のフーガの演奏中に
このウルサイ蜂どもが静かに聞いていたなら、食べないことにしましょう。・・・・・・
「本当ですね!?」

とは云っても、アンドレスには蜂を説得する自信など全くありません。
<アンドレス! いいかい、よっく聞くのだ>
「師匠!」
<蜂の巣に近づくと、一匹の蜂がアンドレスの前に来る。その蜂の目を見て話すのだよ>
「蜂の目を見て・・・・。解かりました!」

アンドレスはとても怖かったのですが、食べられることの恐怖よりはマシでした。
ゆっくりと蜂の巣に近づき、小さな声で
「蜂さん、私の話を聞いてください」
<ダメダ、もっと近づいて!蜂は刺すものと思っているから怖いのだよ>
<ブ〜〜ンという音は、蜂が出しているのでない!飛ぶ時の羽の音。さあ、もっと近づいて!>
アンドレスは力を抜いて、思い切って近づきました。
「あなたは、蜂の代表ですか?」
〜ブ〜〜〜ン
「お願いがあります」
〜ブ〜〜ン
「これから私はフーガという曲をギターで演奏します。その間、静かにしていて欲しいのです」
〜ブ〜ン
「私はその曲を弾き終わると、あそこに居る女性に食べられることになっているのですが、
もし、あなたがた蜂が、私の演奏中静かにしていてくれると私は助かるのです」
〜ブン〜
「お礼はなにも出来ませんが・・」

アンドレスは蜂の目を見ながら心で話しかけました。
そして、蜂の巣から降りて、ギターを取り、音を合わせ始めると・・・・
蜂の動きがピタリと止まったのです!

アンドレスは謎の女性を無視して、木の上の蜂の巣に向かって一礼しました。
「これから1001回目のフーガを弾きます」
不思議な響きを思い浮かべ、右手をギターの上にセットしました。
左手は手で何かをすくうような仕草で前に一度グイッと出してから
Bの9フレットに持って行きます。

軽く空ビブラートを2回してから、ミ・ミ・ミ・ミ〜と弾き始めます。

不思議なことに、アンドレスがフーガを弾いている間中、
蜂は巣の中で、木の枝で、岩の上で、土の上で、じっと聞いています。
こんな光景は見たことがありません。

最後のaマイナーのコードが鳴ると、一瞬の間を置いて蜂たちは一斉に羽ばたき始めました!
巣の中にいた蜂は一斉に飛び出し、木の枝に止まっていた蜂は枝の周りを、それぞれに忙しそうに飛び回わり始めました。
一匹の蜂がアンドレスの顔の前に来て、じっと見つめました。
「ありがとう、楽しんでくれたかな?」
<・・・・ス・バ・ラ・シ・イ・・マ・タ・キ・カ・セ・テ・オ・ク・レ・・>

謎の女性はこの様子を見て
・・・・・・合格ね! おめでとう、アンドレス・・・・・
そう言うと、静かに歩き始めました。
「待ってください。あなたはいったい誰なのです?」
・・・・・わたし? 私は・・・・ふふふ、内緒・・・・・


●沈黙
1001回フーガを弾き終えると、今までアンドレスを監視していた大男や謎の女性は消え、
偉大な音楽家61人も去り、見知らぬ街に一人アンドレスは立っていました。

<しばらくギターを離れるのだ>
心の声が聞こえます。
「なぜです?」
<人間は時々病気になる、それは休息をしなさい、という身体からのメッセージなのだ>
「はい、しかし私は今病気ではありません」
<いや、そうではない。君は今疲れている。>
「しかし?・・・」
<思い出してごらん、1001回フーガを弾き続けた日々を、一日として寝たことがあったかい?>
「そういえば・・・・・私は一度も寝ていません!」
<そう、だからしばらく休憩しなくてはいけない>
「寝るのですか?」
<そうではない、ギターからしばらく離れるのだ>
「云っていることが、よく解かりません」
<では、聞くが、君は何故ギターを弾くのだ?>
「ギターを弾いていると楽しいからです」
<ハハハハ、正解だ! でも1001回弾いたのは、楽しいからか?>
「・・・・いえ、命を守るためでした。」
<楽しく弾くのと、何か目的があって弾くのとは意味が全く違う。
ギターを弾くことがアンドレスの人生の目的にならなくては本当に楽しくはならない>
「そのために休息が必要なのですか?」
<急がないでアンドレス! ギターの練習は大事だ、だが、その前に人間としての試練がある>
「つまり・・・・」
<自分の心の習性を観察するために、沈黙を続けなさい21日間。たった今から・・>


沈黙!

21日間沈黙を守る!

これが次の試練。
これを破ると?
破るとどうなるんだ!?
何も聞いていない。
しかも、沈黙せよ!
と云われた瞬間から、その修行はスタートした。

普通なら、それをやぶればどうなるか、まで聞かされる。
しかし、王となる者には、そんな条件など出ない!
いや、そうではない。
「死」が待ち受けていると考えてよい。

師の言葉とはそうしたものなのだ。

師であるセゴヴィアの言葉は絶対なのです。
この意味は、心の言葉を聞いた者には、自然に体得する性質なのです。


突然雨が降って来ました。
それもだんだんひどくなって、風も出てきました。
ドシャブリの上に突風も吹きます。
アンドレスはあたりを見回すと、少し離れたところに小屋らしき物が見えます。
走ってその小屋の前に行くと
少し強めに戸を叩きながら、
「すみません!開けてください。」と言いそうになって、慌てて口に手をやりました。
そうだ、口をきいてはいけなかった!
2度、3度と戸を叩きましたが中からの返事はありません。
思い切って、戸を開けると、簡単に開けることが出来ました。

「ごめんください。」と心で言います。
中はがらんとして、誰もいません。

・・・・誰もいない、少し休ませてもらおう・・・・

しばらくすると、アンドレスはウトウトし始めました。そして、
いったい何日ぶりでしょう、寝てしまったのです。

ドスン! ポカリ!
頭と身体を同時に蹴飛ばされて、目を覚ましました。
「痛い!」思わず声が出そうになり、アンドレスは口に手を当てて、その声をぐっと飲み込みました。

・・・・なんだコノヤロ〜、良い服着てるぢゃあないか、剥ぎとってしまえ!・・・

いかにも悪そうな髭ずらの男2人にあっと云う間に、布切れ1枚だけにされ、
蹴飛ばされて、小屋を追い出されたのです。

・・・・「痛たたた・・・・。せめて声を出して、痛い!と云えれば・・・・・」
持ち物全部に服まで取られて、布切れ1枚だけ身に着けてあてもなく歩き始めました。

「この先、どうすれば・・・・・。」
今まで経験のない心細さが襲ってきます。

それにしても、師匠から、21日間の沈黙の掟を言い渡されたアンドレスは、
それが何のためなのか、そして、いきなり全てを取られた今の状態を、まだ理解できずに、
ただ茫然と歩くしかありません。
幸い、雨も風も止んでいました。
・・・・「いったい何が起こったのだろう?、師匠!何か言ってください!」こころで強く叫びました。

歩き続けて、どれほど時間が経ったか、遠くに家の明かりがポツポツと見えました。
・・・・「なんとかして、休ませてもらおう、そういえばお腹も減ってきた。そうだ、私はいったい何日食事を摂っていないんだ??」

眠ったことも、食事をしたことも思い出せないアンドレスは、明かりを頼りに歩き続けました。


●沈黙の村
アンドレスは、明かりのついた一軒の家の前で立ち止まりました。
そして、なんとも言えない静けさを感じとったのです。
トントン! 戸を軽く叩きます。
しばらくすると、戸が開けられ、いかにも人の良さそうな老人が顔を見せ、軽く手を上げ、おいでおいでの仕草をします。
アンドレスが自分の口に手を当て、しゃべれないという合図をすると、その老人も同じ仕草で答えました。
アンドレスは、身振りだけで、今までのことを伝えようとしましたが、
老人は手を振って制止し。アンドレスを向かい入れてくれたのです。

中へ入ると、老婦人がお茶を入れたポットと、小さなクッキーを持って現れました。
どうやらこの婦人も口がきけないらしく、黙ってアンドレスの前に置くとニコニコして、
手で「お上がりなさい」と示してくれます。

<なんて静かで温かいんだ!>
言葉で会話することに慣れているアンドレスは、始めて無言で会話することになりました。

後に知ったのですが、この村の人は全員口を利きません。誰一人言葉を発しないのです。
さらに、驚いたことに、この村人は全員沈黙の行(沈黙することを修行の一部)として実践していたのでした。

沈黙の1日目が過ぎようとしています。
横になって、目を閉じると、辺りの音が全て耳に入ってきました。
風の音、葉っぱが揺れる音、自分の心臓の音、・・・・
言葉を口から出していた時とは、明らかに聞こえ方が違っていました。
・・・・「これは、どういうことだろう?注意深くなっている」
とその時、バッハのサラバンデが、まるで心の泉から勢いよく湧いて出るようにアンドレスの頭の中を占領してしまいました。
自分の意志ではどうすることも出来ません。アンドレスは心地良いサラバンデの流れに身を任せることにしました。

その響きはヴァイオリンではなく、明らかにギターの音色です。
なんという世界!アンドレスは、自分の出すギターの音色とは全く違う響きで聞いています。
以前師匠が聞かせてくれた理想の音とも違う。
しかし、その響きはまるでオーケストラのよう。
ギターのオーケストラ!!
   ・・・・まさかとは思いますが、今現実にあるギターオーケストラのことではないですよ!念の為!!・・・・

1フレーズごとに強弱を使い別け、違う波が起こる。
音色が変わり、ゆっくり、ゆっくりと、まるで穏やかな海岸に打ち寄せる波のように、
十分な間をとって心地良く頭に響きます。
このような音楽を聞いたことがありません。
いや、そうではない、聞いたことがあるのに忘れている。・・・
たった1日沈黙するだけで、音の世界に変化が起きたのです!。


●ソー・ハム
誰も言葉を発しないこの村は、アンドレスにとっては快適でした。
不思議なほど、なんの不便もありません。
実際に20日という時間はまたたく間に過ぎさっていきます。

・・・・言葉のない生活は自分を制御すること、意識的な心と無意識の心の関係を感じることが出来ました。・・・・

<おめでとうアンドレス>
師匠の声が聞こえました。
<合格だ、明日の朝からは普通にしゃべることを許す!>
・・・・・・おかしい・・・・・・
「解かりました。では、明日の朝は、この村の方々に挨拶して去りましょう」

次の朝、沈黙に入ってから21日目の朝が来ました。
・・・・今日は最後のテストがある! 
アンドレスはそんな予感が湧いてきました。
<アンドレス! さあ、もう口を開いて! しゃべってもいいんだよ!>
師匠の声です。
アンドレスは心で答えました。
・・・・師匠!私はもう1日この沈黙を守りたいと思います。・・・・
<なぜ? 私が、もういいと言っているのに・・>
・・・・いえ、そうではありません! 今、私に聞こえている声の主は、セゴヴィアではありません!
<なんと! 私の声を忘れたのか?>
・・・・そうではなく、私の無意識の中にある悪魔の声だからです!・・・・去れ!

<・・・・・・・・・・・・・>
その時、本当の師匠の声が聞こえました。<ソー・ハム>
「それは、それである。この悪い私も、私?」
もう少しで完成! そんな時、隙が出来る。
それが悪いかというと、そうではない。それも良し。
人間の二面性を否定してはいけない。どちらを取るか。ただそれだけ。それが、ソー・ハム

沈黙、最後の日の最初の試練は偽の師匠の声でした。

いつものように、小さなパンと牛乳の朝食を終えて畑に出ると、
見慣れない青年が近づいて来るのが見えました。
そして、その青年の手には、ギターが・・・・。
人懐っこい笑顔で青年はアンドレスに近づき
「おはようございます。僕はギターを弾きながら旅をしています」
・・・・・・ギターを見るのは、久しぶりだ。弾いてみたいものだ。・・・・
「この村にギターの達人がいると聞きました。ご存じないですか?」
・・・・・・ギターの達人!! え、それは本当ですか?
「なんでも、もう80歳を越えた老人だと聞いたのですが・・」
・・・・・・老人!? 誰だろう・・そうだ、
アンドレスは手招きで、家に上がるように促すと、急いで畑に行きます。村人たちはすでに働き始めていました。
・・・・・・この村に、ギターを弾く方はいませんか?
身振り手振りで聞きます。
すると、みんなが笑って云いました。
・・・・この村の人間は全員ギターを弾くのだよ、アンドレス。
・・・・!!それは、どういうことです?
・・・・そういうことさ、みんなギター弾きなのだよ。
アンドレスは言葉を失いました。もっとも今は言葉を発せませんが・・・・。

村人はギターを持った青年を見ると、さも懐かしげに彼の顔を見て、ギターを弾いてくれるよう身振りで云います。

青年は少し恥ずかしげな様子を見せましたが、すぐにギターを取り出すと、
「では聞いてください。ラモーの2つのメヌエットを弾きます」

青年が、ラモーの2つのメヌエットを弾き始めると、どこから飛んできたのか、
2羽の小鳥が青年の前と後ろに降り立ち、チョンチョンと彼の周りを歩き始めました。
そして、その動きは曲が終わるまで続いたのです。
青年が弾き終わると、静かな拍手が起こります。そして、
・・・・・・素晴らしい演奏だ。しかし、・・・・
アンドレスはその演奏のレベルの高さを認めつつも、「何かが違う・・・・何かが・・・。」

と、一人の老人が静かに青年の前に進むと、
・・・・・・では、今度は私が弾いてみよう。・・・・
青年からギターを受け取ると、老人は細い紐を取り出して、たすきをかけます。まるで剣豪が戦う前にかけるたすきのように・・・・

老人は青年が弾いたのと同じ曲を演奏し始めました。
・・・・・なんだ! まるで今作っているみたいな・・・・いや、今まさに作っている!
アンドレスは、まるで自分が鳥になったような感覚になりました。

老人の弾くラモーは決して上手な演奏ではありませんでした。というより・・・・
どちらかというと初心者の演奏です。
しかし、その音は心に直接聞こえます。
耳から聞こえてくる感じではありません?。
Dのコードが静かに鳴って演奏が終わると、アンドレスの目から涙が溢れます。
・・・・・このような演奏があるなんて・・・

感激する!とはこういうことなのか?!
アンドレスは初めて味わう喜びに呆然としていると。
・・・・・君は、この演奏の秘密を解くのだ!
「この声は、師匠ではない。いったい誰だ?」
・・・・・アンドレス! 私は君の前にいる。」
「あなたは? 神ですか? 」
・・・・・私は、どこにでもいる老人だよ、アンドレス」
・・・・・「しかし、今の演奏は? 」
・・・・・君が私と同じ歳になれば出来る! だが今のような練習方法では無理だ。
その練習方法を見つけるのが次の課題なのだよ。
・・・・・「お願いがあります。ヒントを1つだけください」
・・・・・いいだろう。上手を目指してはいけない。上手な演奏はただ相手をビックリさせるだけ。それは黒魔法と呼ばれるものだ。
・・・・・黒魔法?!
アンドレスにはまだ理解出来ませんが、確かにヒントとしてもらった言葉でした。

と、先に弾いた青年がアンドレス同様に目に涙を一杯貯めて、老人の手を握り締めて、
「なんて素晴らしい演奏なんだ! 私を弟子にしてください」
すると、老人は身振りで、こう云いました。
・・・・・そこにいる若い、君よりずっと若いまだ15歳の少年に習うといい。


●マルチェルロ;オーボエ協奏曲 
音が1つ、静かに流れてきました。
レ・レ・レ・レ・レ・レ・
やがて、反対側からもう1つ。
ミ・ミ・ミ・ミ・ミ・ミ
2つの音は濁っています。
まるで、全く知らない剣豪どうしが道ですれ違う・・・・殺気に満ちた出会い。
油断なく相手を感じ、すれ違う。
その一瞬とも云える時間でお互いの全てを知り尽くす。
そんなムードの音の重なり・・・・。
やがて殺気は消え穏やかな雰囲気が辺りに漂う。

お互いがお互いを認め合った瞬間。

と、オーボエが奏するアダージョの旋律が聞こえてくる。

・・・・「この、長く尾を引くようなオーボエの流れをギターではどう処理する?」
・・・・課題ですね?
・・・・「そうだ。この課題をその青年にも与える。そして、アンドレス。君が教えるのだ!」

二人同時に課題をだす。
一方は教える立場、一方は習う立場。

        さあ、君ならどうする?

この掲示板を見ているアナタ!
他人事だと考えずに、真剣に思いを巡らしてくださいよ。
速度変化を考えるのが最初の処理方法。
音量(フォルテ・ピアノ)をこまめに実践。これが次善策。
ギターにはギターの表現方法があります。
このことを最大限利用する。

さらに、・・・・・・・これは二重奏なので、(それを早よ書かんかい!)
二人の剣豪と書いたでしょ。
しかも二人同時に出した課題!
つまり、二人で作る音楽。

ここでは、この課題に対して二人のアプローチを言葉で想像してみてください。


●二重奏の練習
青年ギタリスト(名前をソ〜ラ)とアンドレスは
まず楽譜から音を起こすところから始めました。
そして、お互いのアイデアを指使いに反映し。
その日は言葉を交わすことなく・・・・沈黙最後の日が過ぎました。

次の朝、二人は目が覚めるとすぐにギターを取り。
早速二重奏の練習開始です。
前半の旋律をソ〜ラが、後半の旋律をアンドレスが受け持ちます。

まずアンドレスが単音でスタート、1小節遅れてソ〜ラが2度の響きを奏でます。
・・・・剣豪が刀を微妙に合わせない距離で向かい合う呼吸・・・・
見ている方(聞いている方)は刀の動きを(出ている音を)
しかし、本人たちは全く別のものを感じているのです。
それは、今出ている音ではなく、次の動き(音ではなく動き、呼吸です)
・・・・・・<注意>二重奏として合わせる!などというレベルの話ではないのでご注意ください。

剣豪同士が立ち会う場面とかぶせて想像してください。
相手が上段に構え出すと、もう片方は下段に、それが和音を二人で
(相手の響きを聞きながら、自分のは聞かない。なぜなら、剣豪同士なら、自分の動きを考えますか?
その場で考えるようなら、即負けですがな。)
そして、アンドレスが伴奏の和音を、ソ〜ラが旋律を。
剣豪ならアンドレスが右にゆっくりと動く。ソ〜ラはそれに合わせて身体を動かす。(反対ではないですから、念の為)


●だんだん上手くなる。はウソ!
二重奏と剣豪の立ち会いを比較すると、私は解かり易いし、書きやすい。
読み手は、剣の場合は戦い。二重奏は協力。と思えば矛盾と考えるかも知れない。
しかし、そうではない。演奏とは真剣に曲と向かい合うこと!と考えれば、
つまり、「まあこんなもんでいいか・・」の世界観ではない。
酒飲みながらの世間話ではなく、ある話題に対して真剣に論議する!と云うのは、
将に「真剣勝負」の意気込みがなければ見えてこないものなのです。
アンドレスとソ〜ラが同じぐらいの力なら、刀を持って対峙した時。
おそらく両者とも睨み合ったまま!
ギターなら、自分一人が弾いている状態とほぼ同じ。
しかし現実は両者には力の差、技量の差がある。
この場合、剣豪の場合は師匠は身体をほとんど動かすことがない。
相手の技量が解かってしまうので、言葉にすると、ただ立っているだけで相手は何もできない。
一方、ギターの場合は、伴奏する方が旋律を導くので師匠格が伴奏する。
この場合、旋律を担当する方は自分がなにかしたくても、それが不自然ならば、
伴奏者が遠慮なく助言出来る。そういうものなのです。
「ソ〜ラ」
「はい」
「すでに、私との技量の差を感じていると思うが、どうだ?」
「はい、たった4小節ですが、あまりの違いに今は、呆然としています」
「よろしい。ここで1つ助言しておきます。」
「お願いします」
「技量は、だんだん上達するものではない」
「え?!」
「それは一般論に過ぎない」
「・・・・・・・・・・・」
「今までの経験や練習内容を全て忘れなさい」
「え?では、今までの練習方法が間違っている、と・・」
「そうです。合わせようとしています」
「え?! 二重奏は二人で合わせるのでは?」
「違う、戦うのです」
「誰と、相方とですか?」
「曲と戦うのです」
「それは、ソロの場合も同じですか?」
「もちろんです。あなたは今まで上手く弾こう、とか。鮮やかに演奏する。などと思っていたでしょう?」
「はい」
「それは、合わせるという発想だからです」

例えば指揮者がいて、その動きに合わせる音楽と、ソロとでは根本が違っているのです。
もし「合わせる」というのなら、ソロの場合、何に合わせるのでしょう・・。
まさかカウントに合わせるというのではないでしょう?
それなら、1.2.3.4.と云ってれば解決です。バカみたい!

まず、「戦う」というのは同格なのです。
「敵」は「適している」とも云います。
「曲と戦う」練習方法は、突然「出来るようになる」方法です。
「え?!。しかし、そんな方法があれば、誰でも・・・」
「誰でも出来ます! 誰でも実践すればすぐに出来ます!」
誰でもすぐに出来るのに、「そんな方法はない!」
と思わされているのです。

例えば、このスレッドです。800字以上は書けない!と設定されています。
が、今800字をはるかに越えています!
でも書けています。
これも、そんな方法はない! と思ってしまうとそこで思考が止まっているのです。

練習量を沢山すると上達する!
と教えられているのが全ての元凶です。
少しだけで上達すると「天才」という名前で解決されます。
違います!
練習方法を根本から見直す必要があります。
すぐに効果が出る方法が正しい方法です。
後は、それを身に着ける練習に切り替えます。
これは(身に着ける)時間がかかります。
とりあえず、「音」を変えます。
「はい。私の音と先生の音とでは全く違います。」
「ソ〜ラ。あなたが私のような音を出したい!と思えば、簡単です」
「ええ!簡単なのですか?」
「はい。私の言う通りにすれば出ます」
「ナント! でもそれなら・・・・」
「私の言う通りにして出なかったら、それは私がウソをついているのか、アナタが言う通りにしてないか、どちらかです」
「すると、秘伝というのは、あるのですね?」
「あります」 
「アンドレス先生。私はあなたのような音質でギターが弾きたいです。ぜひ教えてください」
「そうです。そう云えばいいのです。では伝えます」


●秘伝その1; 音の出し方
ギター演奏は身体全部を機能的に使うのです。スポーツと考える方が解かり易いのです。
ギターは発弦楽器!という言葉を使うから、指先ではじいてしまう。

「音の出し方は<とうじんメソッド>という本が2014年頃に日本から出版されます。それで簡単に解決です」
「それが秘伝ですね?」
「違います。音の出し方が解決というのは、剣の持ち方が解かった。というレベルです」
「つまり、次はその剣を振り降ろす!」
「そうです。振り降ろすには?」
「振り上げて、真っすぐに振りおろす。」
「答えになっていません。が、まあいいでしょう。振り上げる方法は?」
「ええ?!振り上げる方法??」
「それが大事なのです。振り降ろすのは、どうにも出来ない」
「重力に従う」
「そうです。だから、振り上げる方法を考えるのです」

例えば、畑仕事をする場面を想像してください。鍬を振り上げる時、半円を描いて降り上げるのです。
昔のお百姓さんは、みんなそうしていました。これと同じです。
「解かりました。弾く前の段階、あるいは弾いた直後の動きを半円にする!」
「そうです! では早速やってみましょう。」
・・・・・実践中!・・・・・
「そうです。簡単でしょう?」
「はい。出来ました」
「それを身に着けるのです」
「これで音楽が変わるのですね?」
「はい、想像もしない動きが出ます」
「楽しみです」

・・・・私の生徒さんは、注意して見ているようで、ほとんど見えていません。
「弾き方」という言葉に騙されています。
弾いた直後の動きが音楽を決定づけています。

「音の出し方」というより「音の止め方」と云った方が適切です。
が、いきなりそんな題名では、奇をてらっている、と受け止められかねません。
それで、あえて「音の出し方」にしました。しかし、そうではありません。
「音の止め方」が音楽を決める。が正しい。なぜなら、出した音に対してどこまで責任を持つか? 持てるか? 
が解かるから音楽が成り立つのです。
それは剣豪が剣を使う時、剣の長さを知っているのと同じ。
もし、剣の長さが3pなら1メートル離れた敵を切ることは出来ません。

剣の長さが65pなら、1メートルの距離で切れます。
もし30pで切らねばならないなら、身体を相手に近づけねばなりません。

同じです。「音」が1秒鳴り続けるなら、そういう作り方。
一瞬で決めるなら、居合!
単音と和音では全く違う発想で弾かねばなりません。
それを和音の名前で決める!と思わされています。和音が正しければそれで解決!と・・・・
和音も、ばらした弾き方と同時では全く意味が違います。
むしろ、ばらした和音と同時の和音の違いから入るべきです。


●秘伝その2;音の切り方
「先ほど一緒に弾いたマルチェルロ、あなたが旋律を弾き始めた時、私は和音を同時に弾きました」
「はい、そうでした」
「これをばらして弾くと、どうなるか実践しましょう」

・・・・・・・実践中・・・・・・・

「なるほど、弾きにくい、というより、なんかバカにされているみたいに感じます」
「でしょう。ここは同時にハッキリと音を前にださねばなりません」
「あ!そうか。あの老人が言っていた、長い音をギターで表現する方法のヒントですね!」
「そうです、だからこそ<戦う>という感覚が必要なのです」
「え? これと<戦う>が関係あるのですか?」
「おっと、これは、私が飛びすぎました」

ここで少し休憩しましょう。

というより、時代を現代に戻して・・・
ロドリゴが作曲したアランフェスの第2楽章、ギターがストロークで伴奏しながら、
あの有名な旋律をオーボエが奏でる場面、ギターにストロークを使わせました。
大間違いです。
一方、同じロドリゴが<ある貴紳の為の幻想曲>の第1楽章で
ストロークで伴奏する場面がピッタリなのです。

同じ和音でも、同時に弾くという発想とストロークという発想では全く違う。
このことをロドリゴは知らなかったのです。

真剣勝負に置き換えると、同じ切るという動きでも、相手を切ってしまうのか、浅手を負わせるだけでいいのかぐらい違う。

「先生、では同時は、相手を切る感覚なのですか?」
「いえ、そうではありません。真剣に例えると、これぐらい違う、という話です」
「つまり、・・・・」
「ギターで同時に和音を弾く、というのは、その和音を聞いてほしいのです」
「二重奏で同時に弾くのもですか?」
「そうです。つまり、上の旋律を助ける気がないのです」
「エエ!!!  では邪魔をしているのですか?」
「全く違います。独立しているのです」
「よく解かりません・・・」

「例えば、あなたが散歩している。すると、どこかからオーボエが聞こえてくる。あなたは歩いている」
「それが、あのアダージョですか?」
「そうです。物語になっています。初めからいきなりクライマックスがあるのではありません。
 そもそも旋律とは、なんだと思いますか?」
「ええ?! 旋律に意味があるのですか?」
「まあ、言葉に出来るとは思いませんが、仮に、あなたが小さな子供に
 ・・旋律ってなんですか?・・・と聞かれたら、どう答えます?」
「・・・・・困りました、答えられません」
「普通はそうです。ここは禅問答になります」
「問答ですか?」
「そうです。これは非常に大切なことなのです。答えがはっきりしている、
 と思っている人には理解できません」
「・・・・・・言っていることが全く理解出来ません」
「それが禅問答です」
「・・・・・・・・・・・・・」

「私はベートーヴェンのヴァイオリン協奏曲の最後の方に出て来る旋律が
 世界で最も美しいメロディーだと思っています」
「ええ?・・最も美しい旋律・・・??そんなのがあるんですか?」
「私は、そう感じるのです。あなたは?」
「私は・・・・・いろいろあり過ぎて・・・・・」
「それです」
「どれです?」
「私には、世界一、つまり私にとって最高のメロディーがある。あなたにはないのです」
「・・・・・まだ解かりません」
「ではあなたにとっての最愛の女性は? という質問と世界で一番美しい女性は? という質問の違いは?
「それなら解かります」
「一緒です。最愛は自分の女性、つまり妻です」
「はい」
「しかし、一番美しい女性は? は普通妻ではありません」
「はい」
「私はベートーベンのメロディーが一番美しいと思う。つまり一番美しい女性は”かぐや姫”というようなもの」
「なるほど、問答ですね?」
「そうです。これぐらいの問答は初級です」
「え?! では中級は?」
「知りたいですか?」
「参考の為に・・」
「感動させるには、下手に弾けばいい!」
「?????なるほど!!!!」
「解かりましたか?」
「サッパリ解かりません」
「お見事!」
「はあ?????」
「ハハハハハ・・・・」
「冗談はヤメテください。ちゃんと教えてください」

「そうですね、音を切る。音は伸ばさない」
「それは?」
「先ほど和音を同時に弾くことと、ばらすことが違う意味であると云いました」
「内容はまだ理解出来ませんが、なんとなくは・・・・」
「次は”伸びる音”と”伸びない音”での旋律の感じ方です」
「あ!! 」
「閃きましたね。では一緒に弾きましょう。」

<秘伝その2>は音の切り方です。
和音を同時に弾いた時の切り方は・・・・穏やか・・・・
一方、ばらした時(早いアルペジオ)は・・・・はっきりしています。
これは頭で考えると逆のように感じますが、実際に演奏すると解かり易い。


●音を翻訳する
さて、ここで再確認しておくことがあります。 この話は、巨匠アンドレス・セゴヴィアが
15歳頃に道端で突然高熱で倒れ、傍目には寝ている状態です。
その高熱で寝ている時に体験したことを、私が書いています。
従って、この内容を、「そんなデタラメ・・・・・」と反論しても意味ありません。
セゴヴィア本人ですら全て忘れている内容だからです。
やがて意識を取り戻した時は、何故か全ての記憶を消されるからです。

これは、私が一度死んだ経験があるから書ける内容なのです。全て、インスピレーションです。
インスピレーションというのは、今自分に起きている事柄を偶然ではなく、全て必然!と感じることから始まります。
そして、それらは全て自分の天職のために用意された事柄!そう感じることから以外得られません。

仮に、病で倒れたら・・・・・それが必然。
お皿を割ったら、それが、なにか意味のあること。
そう感じることが自分を知る最も近道なのです。

さて、音楽の勉強をする人は「音の翻訳」をする必要があります。
音の翻訳と音楽用語の翻訳とは全く別のことです。
ところが、音楽教育は、単に知識を問うだけで、音楽の一番大事なことには何一つ触れていません。
その一番大事なこととは、「音を自分に理解出来るよう翻訳」することです。
「翻訳」と言っても、言葉にするのではありません。
が、言葉を使わなければここに表せません。
そこで、あえて言葉にする、という作業が要るのです。

私は「動き」に変えて理解しています。従って、毎回違う動きが出るのです。
「音の動き」これが私の翻訳機能です。

指揮者という立場の人は、これが出来なければ楽員に伝えられません。
ある意味、演奏家は全て指揮者になれます。
自分がどう感じたか? を身体の動きで伝える。
音の前に動きがある。これが私の音の翻訳です。

しかし、言葉で動きを説明すると、ますます解からなくなります。
「グイグイ行け!」を言葉にすると、
・・・・メンドクサイ!
普段から、身振り手振りを使って話をする練習をしておかないと、なかなか使えません。
それゆえ、黙って座っているだけで伝えることが出来る人は「本物の巨匠!」なのです。
今はそこらじゅうに巨匠が溢れていますが、全て、一流か二流止まりです。

落語に「こんにゃく問答」という話があります。
こんにゃく屋のおやじが寺の住職と偽っていばっている。
そこに本物の修行僧がやってきて問答をする。
実際に問答をすると偽物とばれるので、「口が利けない」ことにする。
すると、修行僧は「無言の行」と勘違いする。
そこで「無言ならば我もまた無言で問う」と開き直る。
落語では、動きだけで表現するが、内容は
「今の心境やいかに?」と胸の前で手を輪っかのようにする。
これを見て「お前のところのコンニャクはこんなに小さいやろ?」と解釈する。
それで、腕を使って大きな輪っかを作って答える。
「なにを言いやがる、俺のところは、こんなに大きい!」
これを見た修行僧は「大海のごとし!」と解釈する。
こんな勘違いが3つ続いて、修行僧は「参りました!」と平伏して去る。

音楽家にはこの手の人間がやたら多い。
特にギターにはめったやたらと多い。私などその筆頭だ。
ユーチューブにアップした直後には、その内容に変化が生じて・・・・
「あのお!HRT君・・・・・あれ、消してくれへん?」
「まあ、ええやないですか。あの時点ではアレでよかったんですから・・」
と毎回慰めてくれる。優しいHRT君です。

身振りや手振りで表現する指揮者。
最近は、指揮台で指揮しないで自分で悦に入っている姿を売りにしている指揮者もいるようですが、
吉本新喜劇なら笑えますが、本職となると、恐怖すら感じます。
自分が悦に入っている姿を楽員に見せて、何を伝えようとしているのか?
私には「私はアホです!」と言っているようにしか見えません。
ギターの演奏も同じです。演奏スタイルが様になっていないギタリストが多すぎるのです。
弾いている手の形が不細工過ぎる!
弾いている姿の写真から、音楽を感じないのです。
スポーツ選手などで「カッコイイ!!」一瞬の姿を見ると、ワクワクします。

この一瞬をとらえる写真。
写真の連続が音の連続と、私の中では一致しています。
音が1つで完了しているのです。
一瞬の音がカッコイイから、その連続である動きに、音の流れを感じる。
音を切る本質は<1音1音が、カッコイイ>のです。
     <和音の弾き方>
二重奏をしばらく楽しんだ二人は、休憩してティータイム。
ソ〜ラが聞きました。
「これは私の第六感ですが、単音より和音の弾き方から教わる方が良いような気がします」
「たぶん、それが正解だと、私も思います」
「単音の方が簡単と普通は思いますが、ギターは逆のように感じるのは、なぜでしょうね?」
「ギターの特性です」
「子供がギターを触ると、大抵はジャラ〜〜ンとEから@にストロークで音を出します」
「そうですね、たぶん私もそうしたと思います」
「親指だけのストロークよりpppimaの方がコントロールし易いのでは、と考えるのは間違いですか?」
「いえ、正解です。pppimaで解説しましょう」
「ソ〜ラは、この弾き方を1つしか出来ませんね?」
「はい。何種類かあるんですか?」
「まず、2種類を身に着けることから始めましょう」
「まず・・・・ということは? まだまだあるんですね?」
「そういうことです。初めは2種類、その後、そこからそれぞれにまた2種類、さらに・・・・」
「解かりました。その始めの2種類をお願いします」

この2種類の弾き方を解説する前に、卓球の球を打つ姿を思い浮かべてください。
軽くバックスイングして素早く振り抜く。
この動きと右手の動きがよく似ています。
pppimまではバックスイング、最後のaで振り抜く動き。
もう1つはサウンドホール側からブリッジ方向に移動しながら弾き切る。

この動きから出る音の流れを感じることから、アンドレスのレッスンが始まりました。


●和音の捉え方
「ギターという楽器はメジャーセヴンという響きが合うのです」
「左手が、@が5F.ならAが6F.Bは7F.Cは8F.になる形ですね・・」
「そうです。そもそも、その形で響くように作ったのです」
「ええ!!本当ですか?」
「ウソです」
「・・・・・・またですか・・。油断なりませんねえ・・」
「そうですよ。先生の言葉など半分以上ウソです」
「では、そのメジャーセヴンの響きの続きを・・」
「そうでした、その響きを言葉に出来ますか?」
「う〜〜〜・・・・出来ません。先生なら出来ますか?」
「そうですね、カッコイイ響きです。ぐらいです」
「・・・・・・・!」
「つまり、言葉とは、不便なものなんです」
「確かに、説明すればするほど遠くなる・・・・みたいに感じることは多いです」

「では本題に入ります。和音をどう捉えるか?」
「楽器によっては和音が出ないもの・・・・・の方が断然多い」
「そうです、鍵盤楽器とギター族ぐらいです」
「では、単旋律楽器の人は・・・」
「例えば、チェロやヴァイオリンのソロでは、和音は同時に出せません。
 つまり音の”流れ”として捉えています」
「一種の旋律ですね?」
「そうです。ギターはどちらの要素も持っていますから、時には旋律。時には同時の和音」
「待って下さい。私はそんなこと意識したことありません」
「そうでしょうね。単音を1つ出し、その上に音を乗せようとしたら、前の音は消えています」
「3度の響きですら意識して出すには難しい・・・」
「そうです。しかもフレットが正確とは限らない」
「弦だって均一ではない」
「そうです。さらに、音程というのは個人、民族によって感じ方が異なっている」
「ということは・・・・・・」

「気持ちが良いかどうか、これが一番大事なのです」
「他の人が気持ち悪くても、自分が気持ち良ければ、・・・・」
「そうです。とても主観的な感覚なのです、音程は」
「音程は? というと・・・?」
「和音は少し様子が違うのです」
「・・・・・あ! 流れ・・・」
「そうです。同時は特殊な響き。しかも1つで完結しています」
「完結?」
「たとえばCメジャーのコードをバ〜〜ン!と出してみると・・・・」
「それだけで起立!してしまいそうですね・・」
「動いている時は旋律で、1つの動作が終わると和音」
「すると・・・・準備体操の伴奏にはピッタリですね」
「はい。将来、日本という国ではきっと出来ますよ!」
「あのお・・・。和音の捉え方。というタイトルですが・・。」
「そうです、まだ解かりませんか?」
「・・・・・・ちっとも・・・・・。」

「和音1つ出すにも“技”が必要なのです」

「ああ!なるほど。解かりました!」


●ソーラとの別れ
「和音の響きは1つでも無限にある!」
「そういうことです!卒業です」
「はい。・・・・・え? 卒業・・・・・とは」
「別れです」
「待って下さい。まだほとんど何も教えてもらってないですよ」
「教える? 私が? 」
「はい」
「ソ〜ラ! あなたは、先ほどから、私と話していて、最後は自分で答えを導きだしたでしょう?」
「それは、そうですが・・。具体的な”技”を教えてもらっていません」
「”技”はいきなり習うものではありません」
「というと・・・」
「最初は聞く、次に慣れる、次に、興味を持つ、そして盗む、のです」
「工夫する!のですね?」
「そうです。だから、私の演奏を聞いて”カッコイイ”と思うところから始めなければなりません」
「すると、教育のように先生からまず教えてもらう・・・というのは?」
「大間違いの、こんこんちきりんちゃん!です」
「そうですよね」
「日本という国には伝統的な教え方があるんです」
「師匠は、まだ15歳なのにそんな国のことを知っているんですか?」
「シャーラップ! 徒弟制度といって、仮に大工さんになりたいと思って入門すると、まず掃除をやらされる」
「ええ! 関係ないじゃあないですか」
「それが、実はとても大事なことなのです」
「・・・・・・そばで見ている・・・」
「そうです」
「あの、それなら別れるのではなく、一緒に付いて行かなくては・・・」
「ソ〜ラ。実は私には師匠がいるんです。つまり私はまだ生徒の身なのですよ」
「あちゃああ〜〜。でも、あの老人が・・・」
「はい。だからこうして私の全てを教えたのです」
「全て??」
「そうです。最初にpppimaの弾き方をやったでしょう?」
「はい、卓球打法奏法!(横切りさん)」
「それです」
「どれです?」
「・・・・前に聞いたギャグです」
「スミマセン。 あれだけ・・・」
「ドアホ! あれだけ考えるのに50年かかったのですよ!」
「あのお、アンドレス先生はまだ15歳ですが・・」
「おっと、失礼。ま、この弾き方からスタートすれば、誰でも50年ぐらいすると、デ・キ・ル・ちゅうことです」

・・・・ということで、二人は別れました。
次回より、本題に戻ってアンドレスの修行が始まります。


●心の段階
沈黙の21日間に、アンドレスには言葉や行動で伝えるより
ずっと沢山の真実を感じる瞬間があったのです。

まず心の3段階と呼ばれる状態を意識することです。
「目覚め」、「夢見」、「眠る」、この3つの状態を意識することでした。

沈黙を実行していることで、この3つの段階を意識することが出来たのです。
そして、この状態を意識することが出来ると、さらに、もう1つ、この段階を越えた状態
(言葉には出来ませんが)を感じることが出来るようになるのです。
アンドレスの音楽の発想は、この状態で出てくるのです。

我々は言葉を無駄に出すために、この3つの状態を意識することが出来ません。
「目覚め」は出来る! と思うでしょうが、目が覚めた時、
「今、私は目が覚めた!」と思っていますか?
私など、いきなり「あ〜〜しんど!」と思っています。
さらに、「夢見」は・・・・これは夢!と自覚出来ますか?
私は高校の頃、寝る前に「今から起こることは夢やから、ナニしてもエエ!」
と思って寝るのですが、・・時々夢の中で・・これは夢ちゃうかなあ・・
でもなあ・・ひょっとして現実やったら、ここから飛び降りたら死ぬなあ・・
なんてしょっちゅう思っていました。でも結局飛べなかった!
ある日、思い切って飛んだことが1回だけありました。
その結果は?・・・・・次の瞬間、目が覚めました!

最後の「眠る」状態を意識する。これは、ヨガの瞑想にあたります。
言葉で簡単に瞑想といいますが、できまへん!
ヨガの達人になると、実際に眠るより瞑想状態の方が身体が休まると言います。
アンドレスは、この3つの状態を意識することをたった21日間で体得したのです。
これにより、完全に自分をコントロール出来る力を得ました。
自分をコントロール出来る!
言葉にすると、なんと安っぽい!
これにより、自分の死を飛び越えて、その上にある「意識」、魂の存在に行き着く。

そのような偉大な人間になってしまったのです。
彼の偉大さは単にギターの達人だった!などというレベルの話ではないのです。
我々は、彼の音楽から、今私が書いていることを感じとらねばなりません。

歴史的事実をいくら正確に知っていても、その人にはなんの実績もない!
実践しないかぎり「絵に書いた餅」なのです。

4つ目の状態「目覚め、夢、眠るの3つを越えた状態」から来る音楽の発想。
これは言葉では無理なのです。しかし、ここから来る発想は、人の心の奥底に語りかけるのです。

コンサートで初めてセゴヴィアの音楽に触れた時、耳に聞こえるのではなく、直接心に入って来る!
そう感じました。
自分の心が音楽で一杯になると、自然に涙が溢れます。溢れてくるのです。
気持ち良い!!
我々凡人は、そのとっかかりとして「とうじんメソッド」の実践が解かり易いと自負しています。


●謙虚さについて
「我々人間は永遠に1つであり、一緒です。しかし、
人間としては何かを達成することなく指導者になってはいけません。」

アンドレスの心に語りかけてきました。
それで、彼はソ〜ラに教えることを止めたのです。

この意味は、謙虚であれ!
謙虚であることによって多くのことを得る。失うものはない。

学ぶ者の最も大切な心構えです。

成し得るとは??

自分の存在理由が解からなければ「成し得る」ことは出来ません。
この簡単で最も不可解なことから始めるべきです。
それが本当の教育です!

私が、「私の天職は、セゴヴィアさんの謎を解くこと」といつもいつも言い、書いているのは
自分の成し遂げる内容を公言しているのです。
何故かというと、すぐに忘れるからです。

これを成し遂げた時、私は指導者になれます。
だから、今は指導者養成中なのです。それもまだ初心者!

その私が、生意気にも指導しようとしています!
それは、私自身に課題として「責任」を持たせているからです。
決して指導ではなく、「こんな道を見つけました。」
と報告しているつもりなのです。

このHPで勉強している方の中には、必ず真剣に勉強している人がいる。
そう感じているので、絶えず真剣に発信しています。
だから、私を勉強させるには、投稿して意見を書いてもらうと、大いに助かるのです。
読者の方が立ち上げた「音楽を作る・・・」というスレッドが最も興味をそそられるのは、同じように感じている読者が多いのだと思います。
ぜひ、続きを報告して頂きたいです。

「謙虚さ」この題名についての物語を書くことは私には出来ません。
それは、成し遂げてから。
セゴヴィアさんはギターで「成し遂げ」ました。
そのことを我々ギターを志す者全員が受け止めて、習う姿勢をハッキリと示すこと。
ここからギターを始めて欲しいのです。
この時、方向として、私の示した道を通ると、少しは見えてきますよ、なのです。
なぜ?
私の天職だからです。


●心の内部を磨くこと
日本には「お辞儀」という素晴らしい作法があります。
これは、とても大事な作法なのです。
みなさんが、人と会う時、人に教えを乞う時、お辞儀します。
このなんでもない行為を習慣ではなく、しっかりと身に付けることは、自分のエゴを無くす近道なのです。

セゴヴィアにレッスンを受けるなら「礼」から入ります。
相手は「成し遂げた人」なのです。
生徒は教えを乞う人です。
人間として大きなへだたりがあるのです。

「成し遂げた人」との間に大きな光の壁を感じないようでは習う資格がない。
つまり、まだ準備が出来ていない。
習うレベルではありません。

お茶の世界では、お稽古の前には必ず扇子を自分の膝の前に置いて、
「お稽古お願いします」と一礼します。
この意味は、
「今までは、人として同じレベルでしたが、今からはアナタが先生、私は生徒として学びます」
という宣誓なのです。
そして「礼」をすることで忠誠を誓います。

この姿勢(型)から入るべきです。
私のメソッドは、この姿勢を示しています。
ギターにおいて、一礼するとは、実行することです。

クイッとグイッから入るのです。
そうすればエゴは消えます。
ほとんど瞬間的にエゴは消え、音楽の世界がほほ笑みます。
これが挨拶です。
前回も書きましたが、私は、この挨拶の仕方を伝えるのが天職なのです。

エゴが消えない限り「心の内部を磨く」ことなど無理です。
クイッとグイッを実践すると、自分の無知さが目の前に出ます!
そして、面白いのは、その無知さが楽しく感じられることです。
言葉としての無知ではなく、実感としての無知は「傑作」なのです。
だから、自然と頭が下がるのです。
その頭を下げる相手が「クイッ」と「グイッ」
そして、頭を下げて、顔を上げると、前に「揺らぎ」が座っていた!
これが、セゴヴィアさんの秘密への入り口。
さあ、自分のエゴを捨て去りましょう。


●真実の世界と現実の世界
「真理」という言葉には、人をひれ伏す力があります。
一方「現実」という言葉には人を納得させる響きが隠れています。
この相反する世界観は、実は同じ世界なのです。
人間とはそういう存在なのです。

有限と無限も同じ世界に存在します。頭で考えると「納得出来ない」事柄ですが、
真理というのは、この一見矛盾している奥に存在している普遍的存在なのです。

普通の心でも、理知的な頭脳でも理解出来ない世界観があります。
この世界観を本当に理解するには「経験」から感じる以外方法がありません。
そして、経験するには「心の準備」が必要不可欠。謙虚に準備して受け入れる。
つまり、師匠を選ぶ!!という大事な選択。偶然の出会いが必要なのです!

アンドレスは自分の中に師匠を見つけました。
直感的な知恵だけが普遍的な世界観に導くのです。

「疑問」を抱くことから始めます。

セゴヴィアという自分自身を師匠として心に持っているアンドレスは、自分は完全ではないのか?
という思いが突然よぎりました。

・・・・音楽の神に会いたいと思いなさい・・・・・
どこからか声がします。
・・・・自分自身のためのものを得るという利己的な願いを捨てなさい・・・・・・
続いて、さっきより大きな、はっきりとした声が聞こえます。
・・・・怒り、貪欲、愛着を手放しなさい・・・・
沈黙を21日間経験したアンドレスには、心の「声」は日常的でした。

?なぜ? なぜ今自分は「完全だ」などと考えたのだろう・・・・。
これは悪魔のささやき??・・・・

ところで、実生活のアンドレスは外からは「いたずら好き」、時には「乱暴者」とうつりました。
何もせずボンヤリとしている者も乱暴者も、その後ろには「臆病」という同じ性質が隠れています。

そうだ!習おう!アンドレスは決心しました。
あの沈黙の村にいた老人。あの人に習おう。
突然の決心をしたアンドレスは、振り返って歩き出しました。

今、アンドレスが経験していることは、普通の人なら何年も、何十年もかかって少し悟る内容です。
が、彼はほとんど一瞬で通過! 
3つ目のテストも一瞬です。

アンドレスがトボトボと歩いていると、道の真ん中にピカッと光る金貨が数枚。
「おや、こんなところに金貨が落ちている・・。」
アンドレスは思わずその金貨を拾ってしまいました。
・・・・・・あ!
「しまった!」 アンドレスはすぐに気が付きました。
気が付いて、すぐに金貨を元あった道に戻しました。
「拾った時点で手遅れなのです。」
どこからか声がします。セゴヴィアの声ではありません。
・・・・言葉で知る、とはなんと簡単。実際の行動で示すのは至難の技・・・・
・・・・「これは理知的な人間が持つ共通の問題です。理知的な知識に合致した行動の練習が必要です。
 本当の知識、知恵は生きて行く中にあります。」

セゴヴィアの声が続きます。
・・・・・・「アンドレス、君はたった10年で世にある全ての曲を弾きました。
   そして、61人の作曲家にも会いました。これらは、まだ知識の段階です。
   これから、練習が必要です。アンドレスがギターについて全てを知っているとしても、
   練習しない限り音楽にはなりません。」
では、その練習方法を伝授しましょう。

沈黙の村の老人が1台のボロボロのギターをアンドレスに手渡しました。
・・・・「このギターで練習しなさい!」
アンドレスは、手渡されたギターを見て、ガッカリしました。
それは、あまりにもボロボロだったからです。ニスは剥げ、表面板は割れだらけの傷だらけ。
フレットもガタガタです。弦だけはフィガロでした!
「このギターはボロボロですね、しかも重い。」
・・・・「このギターで練習しなさい!」
アンドレスはしかたなく、このボロギターで弾いてみました。
「なんだこの音は! 弦は硬いし、まるで音が出ない!」

しばらくこの様子を見ていた老人が、アンドレスの手からギターを取り上げると、静かに弾き始めました。
「あのギターでは弾けない!」アンドレスは思いました。が、その思いは老人が音を出した瞬間に飛んで行きました。
老人が出すギターの音色は、聞いたことがない音色です。美しいというのではない。
初めて聞く音色でした。アンドレスはただ、ジッと聞くしかありません。すると、

・・・・「アンドレス、場所を変えて聞いてごらん!」
セゴヴィアの声です。
場所を変える?

アンドレスは声の意味が解かりませんでしたが、立ちあがって、少し離れて聞いてみました。
「違う、さっきの場所と響き方が違っている。」
さらに、ギターから離れてみました。すると・・・・
「なんだこれは?! さっきの場所より大きく鳴っている。しかも、音の形が見える!」
それから演奏する老人の後ろ、横、さらには数十メートル離れても聞きました。

・・・・・・「どうだい? 少しは驚いたか?」
「あのギターから、どうして??・・・」

老人は演奏が終わると、アンドレスに言いました。声を出したのです。
初めて老人の声をアンドレスは聞きました。
「アンドレス! 君は、このギターを見て、触って、勝手な思い込みをしてしまいました。そして、いきなり弾き、音が出ない! と判断してしまいました。」
「そうです。」
「全て間違っています。」
「え?」
「ギターに挨拶していません。」
アンドレスには、彼の言っている意味が解かりません。

ギターに挨拶??
ギターが言葉を解するのか?
どういう意味だ?
「アンドレス、君はこのギターを見た目で判断してしまった。そして、バカにした。このギターを!」
「確かに。このボロギター、と思った。」
「その瞬間、君の耳は真実を聞く耳ではなくなった。音を出す指ではなくなった。」
「そんなはずはない。いくら少し先入観が入ったとしても・・・・・・少し・・・・あ!」
「やっと気が付いたのか? なんという鈍感な神経!」
「師匠! もう一度そのギターを弾かせてください。」
「だめだ!君はあまりにも鈍感な感性と高慢な知識で固められている! 
沈黙の行で謙虚さを得たはずではなかったのか!」

その時、ソ〜ラがこの村に舞い戻ってきました。
「アンドレス先生。ここにいらしてたのですか? ・・・・そのギターは?」
老人は、ボロギターをソ〜ラに手渡して、
「弾いてごらん、ソ〜ラ」

それからしばらくして、ソ〜ラとアンドレスは道端で立ち止まり、
「あのギターから、あんな音が出るとは」
「そうなんだ。いくら挨拶をしてない、とか先入観とか言われても・・」
「それに、あの音には、なにか言葉に出せない”力”は感じるのだけれど・・・」
「そう。僕もそれは感じるのだが、サッパリ解からない。」
と、二人で話していると、突然ソ〜ラが倒れました。呼吸が荒くなり、ブルブル震え始めました。
「大変だ! すごい熱だ。」
アンドレスはソ〜ラを抱きかかえ、急いで老人のいる小屋へ向かいます。

「どうしたのだ?」
優しく老人が尋ねます。
「ソ〜ラがすごい熱を出して倒れました。」
「そこに寝かせなさい。」

老人は、横になったソ〜ラのそばに来ると、
「ソ〜ラ、アンドレス、あなた方は、ソ〜ラの熱が下がり、元の元気な身体に戻りたいと思いますか?」
「はい、もちろんです。」
「では、謙虚になりなさい。」
そう言って、ギターを抱き、静かに弾き始めたのです。
・・・・・・どう言うことだ? 高熱で倒れているソ〜ラの前でギターを弾くとは・・・
老人が弾くギターの音色は、まるで音のシャボン玉みたいに、一音一音がま〜るく
膨らんだかと思うと、その音の玉がソ〜ラの身体に当たっては砕け、当たっては砕け、
やがて音の玉はソ〜ラの身体の上をす〜〜っと通過して
空中にフワフワと浮き始めます。
「もういいだろう。」
老人は演奏を止めて、アンドレスを見て言いました。
「彼の様子をみてごらん。」
二人は顔を見合わせました。
「治っている!」
「どういうことなのだ?」
「まだ解かりませんか?」
「ギターの音色!?」
「そうです、このギターは単に音が出るだけではありません。
聞く人の心や身体を正しい道へ導くのです。」

音が身体や心を正しい道へと導く・・・・・
「そのギターの力ですか?」
「違います。弾き手の力とギターの力が合わさって初めて出来る技です」
「アンドレス、君が毎日働いていた畑を見に行ってごらん」
優しい声で老人が言いました。

二人はすぐ隣にある畑に向かいます。
畑は名も知らない花がいっぱい咲いていました。
しかも、香りがとても強く、しばらくすると、二人はまるで、自分が花になったように感じ始めました。
そして・・・・・・・
何も考えられなくなり、やがて自分を意識出来なくなりました。

「目覚めなさい!」
その一声で目が覚めました。
「今、あなたがたが経験したのは、錯覚です」
「花の香りで、まるで瞑想しているかのような世界に入り込んだのです」
「それらは全て偽りの現象です。知識という花の香りに騙されたのです」
「他の人の経験や知識の中で暮らしてはいけません」
「さあ、これから君たちは本当の音、音楽を学ぶために、もっともっと謙虚になって自分で実際に体験するのです」


●閑話休題「
さて、かなり深刻な進行となってきました。
私の浅い経験から言っても、自分の耳で経験した結果、
自分の指で出した結果、というのは実際は大したことありません。
それを言葉や、他人の経験(ほとんどは誇大になります)を聞くことで、瞬間的に錯覚します。
「自分が経験した!」と・・・・・

本当は、全然大したことないのが常です。
私が初めてアンドレス・セゴヴィアの音楽と接するまでの音楽は、上記のような錯覚経験だったのです。
実際に、私が大阪フェスティバルにセゴヴィアを聞きに行った時は体調が最低でした。
耳鳴りもして内心「こんな状態で憧れのセゴヴィアさんに会うのか!情けない!!」
そういう思いで行ったのですが、コンサートが終わると(と言うより始まるとが正しい)すっかり全快していたのです。
そして、コンサート直後に、心にあの「声」が鳴りました。
・・・・「私の謎を解け!」・・・・・

その時から、全ての知識、つまり、本や他人から得た知識は捨てることにしました。
レコードも聞きません。
読んだ本のことは全て忘れ(幸い、私は記憶力がないので、これらはすぐに実行されました)、
自分が得たと思われるギター経験も捨てることにしました。
レッスンもその頃(セゴヴィアさんのコンサート後2〜3ケ月)は何もしていません。

捨てる! これは難しそうで簡単なのです。
極意を書きます。まず自分で知ったかぶりを演じます。そして言いふらすのです!?
すると、その直後に恥ずかしさが襲ってきます。
すると、心の中で「なかったことにしよ!」
という自己防衛本能が働きます。
これで解決!

そんな訳で、ユーチューブにアップされると、
「忘れる」
という特技が発揮されて、次に進むことが出るのです。
みなさんも、心に貯めるのではなく、経験したことを惜しげもなく出すことで、捨ててください。
言葉でも文章でも、出すことで捨てられます。
心に貯めて、「これは大事なんだ!」なんて思うと、錯覚の世界に入るだけです。
下手を認めて出す!
これが極意です!


●恐れを克服
恐れは克服する全てのものの中で最大のものです。
内側に住む悪魔です。
恐れが無くなれば、自由の階段を登ぼり始めるでしょう。

アンドレスは謙虚さの修行を修了はしませんでしたが、次の課題を出されました。
終了せずに・・・・・・それほど謙虚さは難しいのです。

アンドレスはソ〜ラと共に歩き始めました。
沈黙の村の老人に指示された方角に向かって歩いていました。
道はただただ続いているだけ!
辺りはうす暗くなり、二人とも歩き疲れて、とうとう道端で座り込んでしまいます。
アンドレスはウトウトし始めました。
しかも寒くなってきました。
毛布など持っていませんので、手を首の周りに置いて仮眠し始めました。
その時、夢を見ました。(夢の中の夢)・・・・悪魔が強い力で首を絞めてきます。
アンドレスは窒息するのではないか!?と思いました。
隣に座っていたソ〜ラがアンドレスの異変に気付き、揺り起しました。
「誰かが私の喉を絞めている夢を見ました」
ソ〜ラは云いました。
「アンドレス、あなたが自分の手で喉を絞めていましたよ」

我々が悪魔と呼ぶ正体は、実は我々の一部なのです。
悪魔や誤った考えは我々の無知からくるのです。
人の心は恐怖の悪魔になることも、偉大な友になることも出来ます。
無意識の世界にたくさんの悪魔が住んでいるのです。
夢とは、眠りと目覚めの中間にいる状態です。
心の自然な状態と言ってもいいでしょう。
意識がちょっと休憩している間に無意識の世界から記録を呼び戻す瞬間なのです。
隠された欲望も無意識の場所に潜んでいます。
しかも、それが実現を見るまで待っています。


●夢について
今回は「夢」について考察します。
従って、セゴヴィア物語の横道に入ります。が、
今回の話は、私にとってかなり大事な内容になります。
それは、60歳を目前にした時に見た夢があまりに強烈で、実感があったのです。
「これは! 必ず実現する(セゴヴィアの謎解き)」と確信したのです。
その内容は、部屋一杯の大きな白ヘビに巻きつかれた夢です。
しかも、その横にはトラが!
ところが、何故か、気持ちが良い! 
怖い!という気持ちは全くなく、とても気持ちが良いのです。
その夢の後、これは「近い!」と感じました。
それからは今までより、より油断しないように心がけました。

さて、夢を通して我々は自分の隠れた個性の側面を分析することが出来ます。
夢には大きく分けて2つあります。
1つは予言的な夢。もう1つは単なる悪夢です。

予言的な夢は道案内をします。
悪夢は欲求不満により作り出された苦悩のしるしです。
後者は、とても疲れていたり、胃調が弱かったりすると発生することがあります。

ところで、悪魔は存在するのでしょうか?
存在という言葉の持つ意味を深く考えると、
ただ一つの存在は、普遍的な全知全能の存在、神の存在のみです。
では悪魔はどこに存在するのでしょう?
宗教的な病気にかかって、神の存在を忘れることで悪魔の存在を信じてしまいます。
否定的な心は、人間の心の内側に住む最大の悪魔です。

何度も書いたように、私は死の体験をしました。
魂の密集した「あの世」は360度見渡せます。
そして光り輝いています。でも眩しいなどとは感じません。
「気持ち良い」以外の感情は存在しません。
そして、たぶん、またこの地球の動物か植物か、
もう一度人間に舞い戻ってくるのではないかと思います。
その意味では、全ての生き物の大元締めは同じ「魂のたまり場」だと感じています。

だから、我々全ての人間は根本で繋がっています。
夢で私はたくさんのメッセージをもらいました。
近年は夢ではなく、実際のレッスンや普段の行動中に「メッセージ」を受け取るようになりました。

今日も朝のレッスンで、突然私の口が勝手にしゃべり始めました。
その内容は・・・・見たことも、聞いたこともない音楽の在り方でした??!!
しかも、そのことを生徒さんはとても素直に受け入れてくれました。
思うに、この内容はこの日のこの生徒(2人)さんにだけ受け入れられるのだと思います。
この内容を他の人に話しても混乱させるだけです。
このことが最近やっと解かったのです!

以前なら、今ここに居る人にしか解からない内容を、
「他の生徒さんにも伝わる!」と誤解して、話して、混乱させました。
だから、最近はただ1回だけのレッスンを生徒さんと共有する喜びに感謝しています。
生徒さんが居て、始めて成り立つレッスン!ただ1回だけのレッスン!
もし、全ての行動がこのように感謝出来る経験なら、
人生はなんという素晴らしい出来ごとの連続なのか!

メッセージは目という物を見る器官や、耳という音を聞く器官からではなく
「心」に直接感じるものです。
ぜひ、みなさんも「準備」していてください。必ず感じます!
技術的なことをいくら勉強しても解かりません!
断言します。
でも、だからといって技術を軽く見てはなりません!
人間は技術によって進歩し、新しい発見をし、物を作り、生活してきました。
ただ、芸術という分野は、技術の奥が感じられないと成り立たない!
という事実を受け止めてほしいのです。
人によっては、この感受性が先行して、技術と知性が付いて来ない人もいます。
それは時に悲劇を生むかも知れません。
でも、それは、きっと誰かにメッセージを送る役目をしていると思っています。

夢を見てから、相当時間が経っても「まだ覚えている!」
「あの夢から時間が止まっている」などと感じたら、
それは「夢」ではなく、「予知」です。
自分が存在する理由を真剣に思い巡らしてください。
横道が長すぎました。スミマセン。


●存在理由
アンドレスにはギタリストとしての前に、人としての修行があります。
高熱で寝ている間に、本来なら一生かかっても出来ないような修行を課せられています。

心の声が聞こえます。
・・・・「アンドレス、君はこれから東の方に歩きなさい。街のはずれの小川の近くに火葬場がある。
何が起ころうとも、そこに41日間、一人で生活しなさい」

さらに声は続きます。
・・・・「途中で投げ出したくなっても、その場を離れてはいけません。
これは、これからの君の人生において常に起こる事態です」
・・・・「覚えていなさい。41日目に君自身の中に進歩の兆候を見つけるでしょう。
決してその前に諦めないように。君の心の誘惑に負けないように・・」
「解かりました。41日間その場所に留まります」

アンドレスは心の声に従って、その場所に到着しました。
火葬場ですから普通は人が近寄ることはありません。
近くに小さなかやぶきの小屋を見つけました。
アンドレスはそこで一人だけの生活を始めます。

39日が経ちました。その間、アンドレスには何も起こりません。
ただ静かに時が流れるだけです。その日、突然・・
「僕はなんてバカなことをしているんだ!こんなところで大事な時間を潰しているだけじゃないか!」
そんな強い思いがこみ上げてきました。

39日目にアンドレスの心は、
「あと2日で41日だ。しかし、この2日で何が起こるというのだ。
39日経っても、何も体験していない、何も起こらない」
まるで死者たちの間で生きているような39日間。
師匠のセゴヴィアは間違えたのではないか? 無駄としか思えない! 帰ろう!

アンドレスは決心すると、素早く身支度を整え、小さなかやぶきの小屋を出ました。
街へ向かって歩いていると、何かの楽器が演奏されているのが聞こえます。
その楽器に合わせて歌っている女の人がいました。
その歌詞が・・・・なんてことしたの! あなたは、なんてことしたの!・・・・・・

アンドレスは、その言葉が頭に鳴り響くように感じられました。
「僕はどうして、あと2日間我慢できなかったのだ!?」
アンドレスは急いで小屋に戻りました。

41日目。その日、まるで花が一気に咲いたようにアンドレスの心に変化が生じました。
無限に湧き出る泉のような想いが生まれました。

課題を成し遂げたアンドレスは、街への道を歩いていると、あの日の女性に再び会いました。
「あなたは私を助けてくれました。あの時、あの歌声を聞かなかったら、
私は大きなあやまちをおかすところでした」
アンドレスは彼女に、自分に何があったのかゆっくりと話しました。
全てを話し終えた時、彼女は言いました。
「私はこれからずっと歌っていきます。私の歌で、あなただけでなく、
 たくさんの人が自分の道を歩けるようになる助けをしていきます」


●弟子とギター
9割がた出来た時は道半ばであることを体験したアンドレス。
沈黙の村に帰って、あの老人の前に来ると、

「アンドレス、心の準備が出来たようだね。では、このギターで演奏しなさい。」

そう言って、老人はギターを差し出しました。

ギターを手にすると、まずその外観を眺めます。そして

「これから私は、アナタを弾きます。よろしくお願いします」
心で言うと、基礎練習を開始しました。
スラー、スケール、アルペジオ・・

・・・・「なんという響きだ!いつもの練習なのに全てが新鮮。
このギターは本当にオーケストラのようだ!」

アンドレスは時間の経つのも忘れてギターを弾き続けました。


それから数ケ月が過ぎました。

アンドレスの周りには、いつのころからか彼の弾くギターを聞きに来る人が集まるようになりました。

そんなある日、演奏が終わって一休みしているアンドレスの前に、一人の若者が来て

「私はこんな素晴らしいギターの音色を聞いたことがありません。私を弟子にしてください」
「いいですよ。しかし、私から学ぶのではなくあなた自身でギターから学ぶのです」
「え? 教えてはくれないのですか?」
「私が教えることは何もありません。自分で学ぶのです」
「・・・・分かりました」

若者はアンドレスが弾いている間は、じっと聞いていました。
アンドレスが休んでいる時に練習しました。
しかし、アンドレスのギターの音色と自分のギターの音では、あまりにも違い過ぎました。

自分のギターの音色が貧弱すぎたのです。

ある日、アンドレスは若者に云いました。
「今日は隣の村に行く用事が出来たので、今から出掛けます」

若者は、アンドレスが出掛けたのを見送ってから、アンドレスのギターを許可なしに弾き始めました。
「なんと素晴らしい音だ!」
それから、あわただしく持ち物をまとめると、アンドレスのギターと自分のギターを入れ変えて立ち去りました。


●名器
若者はアンドレスの使っていたギターを持って、アンドレスの行った村とは反対の方角に歩き始めます。
「このギターがあれば、私だって素晴らしい演奏が出来る!」そう確信していました。

次の日、若者は日課となっていた朝の基礎練習を弾き始めます。
このギターはまるでオーケストラのように、その豊かな響きを遠くまで聞こえさせることが出来ました。
「このような音で弾けば、毎日弾いている曲でも新鮮に感じる!」
いつのまにか若者の周りには人が集まってきます。

1日が終わる頃、彼のギターケースには沢山のお金と、贈り物が貯まっていました。

それから2週間が経ちました。
「いったいどうしたのだろう? 弦も新しく張り替えたのに・・・」
若者のギターから、あの豊かな響きが突然消えたのです!
「こんな音なら、どこにでもあるギターと同じだ!」
貧弱な音色から音楽は生まれません。
それでも若者は「今日は機嫌が悪いのだろう・・・。明日になれば元に戻る!」

しかし、一旦消えた響きは戻ってきません。
気落ちした若者は、そのギターを売ってしまいました。
「このギターは張りが強すぎる。これでは音は出ない! しかも私の手には大きすぎる。音程だってどこかおかしい・・! 」

古道具屋の片隅に置かれて3ケ月目に、このギターの前に立った少年がいました。
「ぼうや、ギターを弾くのかい?」
店主が聞きました。
「うん! でも僕はギターを持ってないんだ。いつも友達のギターを借りて弾いているんだ」
「ちょっと弾いてごらん」
「いいの?」
少年は嬉しそうに、そのギターを手に取ると、ホコリや汚れを自分の来ている服の裏で丁寧に拭き取りました。そして、音を合わせます。

「どうだい気に入ったかい?」
「うん! 素晴らしいギターだね! こんなギターで弾けたらすぐに一流のギタリストになれそうだ!」
「アハハハハ・・・・。よし、それじゃあそのギターで練習しなさい!」
「でも・・・・僕はお金を持ってないから・・・」
「それじゃあ、こうしよう。1週間に1度、そのギターで君の演奏を聞かせておくれ、1年間続けたら君にあげよう!」

こうして、アンドレスのギターは少年の手に渡ったのです。彼の名はユ〜ダイ!


●ユーダイ
ユ〜ダイがこのギターで練習を始めた日の夜のことです。
練習に疲れて一休みしていると、・・・・・m、a・・・・・pma・・・・・・・pam・・・・・・・
「ん?今の声は?  確かにm、aと聞こえたが・・・・」
ユ〜ダイの頭に直接語りかける声が聞こえました。
「!そうか・・・・・これは、このギターの声だ!」
なんの根拠もない結論が出ました。しかし、その時ユ〜ダイの疑問が解けたのです!

ユ〜ダイは初めてギターを習った時、右手のiとmから弾き始めました。しかも指を動かして・・・・
しかし、彼はこのことが納得出来ません。
まず、人差し指と中指を使うこと、次に指を動かすこと。2つとも納得出来ませんでした。
彼は普段の生活から、物を握る時、自然に薬指と小指が大事なことを知っていました。
さらに指自体には力がなく、器用に動くのは手首と肘であること。
指を熊手のような形にして力を入れると、身体の感覚に変化が起こること。
具体的には、この恰好で階段を登ると早く、楽に登れることを知っていました。
さらに、身体の動きに関して彼はとても注意深く観察するのが好きだったので、
同じ形でも、その形が出来上がる過程が異なると、力の入り方が随分と変わることを知っていました。
どういうことかと言うと、腕を前に突き出した状態を作ることを、
腕を上げた状態から降ろして作るのと、腕を下げた状態から上げて作るのでは、ナニかが違うのです。

mとa、これだけで彼には、その意味が解かりました。それで、早速ギターを抱え
「今までの基礎練習を見直してみよう!」
声に出して言うと、ギターを習った最初の段階、開放弦をmとaを使って弾き始めました。

「なんて弾き難いんだ! でも・・・・1音1音に意識が入る!」
「しかも腕と肘・・・・・肩の感覚が・・・」
習慣的に動かしていたことが、たったこれだけで(mとaを使うこと)なんという変化だ!

こうして1週間後、あの古道具屋を訪ね、店主にギターを聞いてもらいます。
「ほ〜〜、前より下手になったね! しかし、ずっと面白い演奏だ、アハハハハ」
どうやら店主には喜んでもらえたようだ。ユ〜ダイはこの1週間にあったことを話しました。
「それは面白い! ギターから声が聞こえたのは、きっと君がギタリストになる運命だと思う」

フォルテ、ピアノの変化に指使いを変える!という工夫をしてみました。
さらに、左手の動きにも注意すると、
「これは・・・・。指使いを変えることで全く異なる表現になるし、右手の指使いを変えると同じ曲なのに別の曲になる」
「初級の練習曲でもう一度おさらいし直さなければ・・・・」


●そして1年
ユ〜ダイが古道具屋から預かったギターで練習を始めてから1年が経ちました。
「今日は、あれから1年。おじさんはこのギターを僕にくれるかなあ・・・」

いつものようにギターを持って古道具屋に行くと、店の前に大勢の人が立って中を覗いていました。
「どうしたのですか?」
ユ〜ダイが見物の人に聞くと
「見てごらん、ここは確か昨日までは古道具屋だったのに、・・・・・」見ると、そこには立派なギターショップが建っていました。
「本当だ! これはいったい・・・・・・たくさんのギターが並んでいる・・・」
しかも、どうやらギターショップの中では、有名なギタリスト<アンドレス>が演奏しているようです。

店の中も外も人でいっぱいです。演奏が終わると一斉に拍手が起こりました。
「ユ〜ダイ!」
店主が声を掛けます。
「さあ、こっちにおいで。 この子が話していたユ〜ダイというギタリストのタマゴですよ」
店主は<アンドレス>に紹介しました。

アンドレスはユ〜ダイという少年の持っているギターを見て、
・・・・おやおや、こんなところにあったのか・・・・・
「ユ〜ダイと言ったね、さあ何か弾いて聞かせておくれ」

・・・・「素晴らしい演奏だった。約束では、そのギターは今日から君の物になるはずだったが・・・」
「え? では・・・・返すのですか?」
・・・・「そうなんだ。実はそのギターは盗まれたもので、この<アンドレス>さんのギターなのだよ。
「そうなんですか・・・・。では、お返しします。長い間ありがとうございました」
・・・・「うむ。その代わりに、このギターを君にあげよう!」
「!!!ええ・・・」
少年はあまりの驚きに、言葉が出ません!
差し出されたギターは<アンドレス>がついさっき弾いていたギターだったのです。
・・・・「これは、ポセ・ラメ〜レスという名器だよ。さあ、今日から君のギターだ!」

「私を弟子にしてくれませんか?」
勇気を声に変えました。
・・・・「私は弟子をとらないのだよ。しかし、私のアドバイスが欲しくなったら、強く心に思うことだ」
「解かりました。・・・・あ! では、あの時の声は?」
・・・・「それは、私ではない」
「解かりました」
見るからに古ぼけたギター! そして、見るからに立派なギター、ポセ・ラメーレス。
自分の元へ返った古ぼけたギターをケースに入れると
・・・・「では、またどこかで会いましょう」
アンドレスは少年と別れ、沈黙の村へと向かいます。


●失うことは、手に入れること
アンドレスは1年ぶりに愛器を手元に置きました。
名も知らない青年が、勝手にアンドレスの弟子となって、
勝手にギターを持ち去り、勝手に古道具屋に売り、それからは行くえ知れず・・・・
そのことでアンドレスは愛器のない1年を過ごしました。
でも、そのおかげで「愛着」と「怒り」も同時に捨てることが出来たのです。

青年がギターを持ち去ることはアンドレスにとっては1つの試練でした。
これを見事に果たし終えたのです。

そして、そのギターはまたアンドレスの元に戻ることに・・・・・・これは何を意味するのでしょう?

物を失うことは、その物が移動しただけです。
しかし、人間の心の奥底に潜む「悪魔」は機会を狙っています。
その「悪魔」が居なくなることは・・・。

その場所に「神」が住むことなのです。

アンドレスは「神」を手に入れました。「音楽の神」です。
これほど素晴らしいことが他にあるでしょうか!?

失うことは、手に入れること。
アンドレスの目覚めは近い!



村に着くと、村人が全員でアンドレスを迎えます。
「お帰り、アンドレス!  と言いたいところだが、君はもうこの村に留まる必要はない」
「それは、私が成し遂げたからですか?」
老人は答える代わりに、顔をゆっくりと縦に動かし、
「これからはギターを世界に広める活動を始めるのだ」
「音楽は献身的表現の1つです。献身は愛であり、自己放棄の道です」

さらに続けます。
「多様な道の知識は君自身の信念を形成するために君を導きます」

「君は、知れば知るほど、ますます学ぶ決意をするでしょう」

「識別の能力が鋭くなれば、君は君の道を疑いなくしっかり歩くでしょう」


●不思議な老人
・・・・「おや、やっと目が覚めたね・・」
アンドレスは高熱で道に倒れ、偶然通りかかった婦人に助けられました。
およそ4日目に一時的に数分だけ目が覚めました。
熱はまだ下がってなかったので、頭はボ〜〜っとしています。
・・・・「夢を見ていたようだね、今は夢ではないよ!」

その時、家の前を不思議な歩き方をしている老人が目に入りました。
アンドレスは声を出そうとしましたが、出ません。
その老人は、まるで荷車を引っ張るような恰好で歩いています。
アンドレスは起き上がることが出来ませんでしたから、目でその老人を追いかけました。
そして、水をもらうと、また深い眠りに落ちます。

・・・・「もう少し、眠りなさい」
婦人は優しく語りかけると、窓の外に目をやり・・
・・・・「今のは、ガンジー?・・・・そんなはずはないのだが・・・・」
そうつぶやいてから、外に出ましたが、誰もいません。
・・・・「この子に見えた幻が、私にも見えたのか?」
そして、婦人はアンドレスの横に座ると、静かに目を閉じ、瞑想し始めました。


●風の足跡
「思い付き」は全ての財産の中で最高です。

幸運は適切な時に「思い付き」や能力を表現するのを助ける稀な機会です。

自分の存在の和音!!
その和音が同調すると宇宙のハーモニーに近づきます。

音楽は「永遠の中に姿を消す方法を教える」

そして、風の足跡・・・・・・・・

アンドレスの頭に次々と言葉が現れては消えていきます。

「待って!」アンドレスは思わず声に出しました。

その時、あの老人が前を通ります。
荷車を牽いているような歩き方の老人です。

「そうか!!」
アンドレスに、ある想いが湧きあがりました。
そして、ギターを手にすると・・・・

スケールは最高のメロディーとなり。
アルペジオは全ての和音が宇宙との繋がりで響く。
スラーは・・・・・風の足跡!


●プラテ〜ロ
背中にたくさんの枯れ草を乗せて、小さなロバが山道を歩いている・・・・・。
その横で老人が、まるで荷車を牽いているかのような歩き方・・・・・・・
「あれは?」
あの歩き方は、どこかで見た。

そして、聞いたことのない響きが遠くで鳴っている・・・・。

「なんて素晴らしい響きなんだ!」
しかも、あの音は???

ギター?

いったい誰が弾いているんだろう?

・・・・・・・・セゴヴィア?・・・・・
あなたですか?
・・・・・・・・今は存在してない音楽だ。・・・・・
え?  では、  未来?
・・・・・・・・プラテ〜ロ・・・・・・
え? なんですって?
・・・・・・・・プラテ〜ロ・・・・・・
プラテ〜ロ?  それは?
・・・・・・・・君が、いつか弾く作品だよ・・・・・・

アンドレスの近くで2羽の鰈がユラユラと飛んでいる。
ぼんやりと見ていたアンドレスは、なにげなくその影に気が付き
「そんな??」
思わず声に出てしまいました。
「影がロバになっている???・・・・」

そして、またあの老人がのんびりと歩いていた。


●メランコリー
さて、ここで物語は一旦ワープする。

ここは、コンサートの為に移動する飛行機の中。
セゴヴィアは先日テデスコから届いた楽譜を見ていた。
「詩の朗読と一緒に演奏するのか・・・・。面白い発想だ!  しかし・・・」
もちろん初めて見る作品なのだが、セゴヴィアは・・
「おかしい?! 初めてのような気がしない・・どういうことだろう?・・」
テデスコは、この詩にインスピレーションを得たと書いてある。
ということは、この詩を全部読み終わってから次々と湧いてきたことになる。

「そうか!」
「メランコリーだ!」

飛行機に乗っていることも忘れ、セゴヴィアはギターを取り出した。
曲に指使いを付けることはギターでは最も難しい!
<弾きやすい指使い>は誰にでも付けられる。
曲の本質を見抜いて付ける指使いは(時には音も変える)奇跡的作業といっていい。
だから、指使いで名曲が一瞬で駄作になることは世の常。
逆に、たいした曲ではないが指使いで「名曲」に変身することもしばしばある。

この時セゴヴィアは瞬時に指使いを決め、さらに音にまで手を付けた。
「メランコリー!」
試奏が終わると、声に出し、
「これはギター史に残る傑作になる」
「しかし、この曲に隠された謎は・・・・ふふふ」

まるで本格推理小説の探偵が、全ての謎を解いた時のような快感がセゴヴィアを包んだ。
そして、少年の頃、夢に描いていたギターの「音」が蘇ってきたのだ。
「今の音は、まだ完全ではない! この曲を足がかりに飛躍する」
その時、セゴヴィアは1つのアイデアが浮かんだ。


●絶世の美音
美しい音は、表現が限られている。が、しかし、・・・・
とことん美しくなれば・・・・・・
美女ではなく、絶世の美女なら・・・・・・

セゴヴィアは踏み入れてはならない領域に入ることにしたのだ!!
アイデアは持っていた。それは遠い昔に経験したことがあったような気がしていた。
「絶世の美音」
それが、なぜ踏み入ってはならない領域の音なのか?
美は追求してはならない。ただ感じるだけでよい。
実存するのではなく、想像の世界。
小説の世界とも云える。あるいは絵の中の世界。または映画の中の世界・・・・。
想像してください。もし小説の中に実際に迷い込んだら・・・・・・・

「絶世の美音」は人間の世界とは違う世界に入ってしまう「音」
その方法とは???

「1回きりだ! プラテーロと私にだけ使おう・・・」


●波・・・・移動
夢と現実の狭間で意識が朦朧としていたアンドレスは再び夢の世界で目覚めます。

私は誰? 
どこから何故きたのか?
自分と自分以外の物、人との関係は何?
私が存在する必要不可欠の本質は?
意識の中心と現実世界の関わりとは?

次々と襲ってくる疑問の嵐。
アンドレスは「自分はギターを弾きたいだけなのに・・・・。どうして、このような哲学的な問いが湧いてくるのだ」
しかし、自然に心に湧いてくる問いかけを無視することは出来ません。

「移動する」
湧き出る疑問が止まると、次に出たのは「移動する」という言葉でした。

「何が移動するのだ? 音? 音によって何が移動するのだ?」
「美しい物を見ることで、人の心に変化が起こるのは? 何かが移動したから?」
「ギターを美しい音で弾く、ということは?」
「力強い音で弾くということは?」

音楽とは何? ギターとは何?
ギターはどこから、何故来たのだ?
ギターと私の関係は?
ギターが存在する必要不可欠の本質は?

「悲哀」
また言葉が湧きました。
「悲哀が存在する?」(悲哀の原因がある)
「その悲愛を根絶することが出来る」(悲愛を根絶する方法がある)

すると・・・・ギター音楽も悲愛を無くす為にあるというのか?!


●波動
波動が微細になる。
イメージとして捉えると、波動が細かくなると、人への影響が強くなる。
音が伝える内容とは?

ギターから出る音を注意して聞く。

我々は音楽を聞く時「何を」聞いているのか?
正確な高さの音を出すことは、何を伝える?
その前に、正確な音とは?
基準の音が変われば? 単音での意味はあるのか?

音が重なると?
1つの音では得られない「響き」が生まれる。基本は3度と6度。
さらに3つの音が重なると・・・・。
感情までも中包しているように感じる。
これか!?

いや、そうではない。あまりにも短絡過ぎる。
もう一度、最初から吟味してみよう。
「単音」
この単音に大いなる意味があるとすれば、
それは、高さではない!
音質、大きさ、色合い。
その音を出す方法。動き。

いや、そうではない。人間だ。
演奏する人間の本質に違いない。
人間の本質が音に変換するのだ。
しかし、「音」と「言葉」はウソがつける。
特に言葉は・・・・・・・
その時、アンドレスは、あの少女のことを思い出した。
修行途中であきらめかけた時に聞いた少女の歌声。

「あれは偶然だったが・・・・・・いや、そうではない。必然だったのだ。」
「仕組まれている・・。」





その時、アンドレスの頭にヘンデルのサラバンデが鳴り響いた!!


●隠れた力
人間の隠れ持った力・・・・。
ヘンデルのサラバンデには、その隠れた力を見せる謎が隠されていたのです。
アンドレスは、ギターを弾くことではなく、心に湧き出たサラバンデによって、その秘密を理解しました!

サラバンデを弾くことで誰にでも解かるなどといった、おちゃらけた話しではありません。
それは経典を読めば、誰でも悟りが拓ける!みたいなことと同じレベルの戯言です。

それにしても、アンドレスはヘンデルのサラバンデにいったい何を見たのでしょう。
何を感じたのでしょう・・。
「人間の持つ隠れた力」とはいったいどんな力なのでしょう。

これを読んでいる方。
レベルはどうであれ、この際ヘンデルのサラバンデを弾いてみることから初めてみませんか?

ヒントは「柱」です。
柱は神様を数える単位です。
柱は家を支える最も大事なものです。
音楽における「柱」とは?

これは感じる人には感じる感覚なのです。
もしも、・・もしも、あなたが聞く音楽で「音」がまるで柱のように感じることがあれば・・・・・
ヘンデルから得たアンドレスと同じことが起こる!かも・・・。


●語り部と賢者
賢者とは、理想を実践している者。
語り部は、自分は訓練しないが、賢者の行いを語り継ぐ者。

その両者の間はあまりにも距離が開き過ぎている。月と地球ぐらい・・・・。
賢者はごくごく少数。
語り部はそこらじゅうに多数!

賢者は多くを語らない。
語り部はしゃべってなんぼ!

なにも語り部と賢者を例に出す必要はない。
原住民と旅行会社でもいい。
いや・・・・・・・


アンドレスの頭からサラバンデの響きが鳴り止まない。
「散歩に出よう」
街はずれの小路に来ると、また「あの老人」に出会った!
「ロバを連れている・・。」
ロバの背中には木切れや花束がどっさり。しかも、どれも道端に落ちていたと思しき物。

「そこの青年!」
「え?僕ですか?」
「そう、君だ。君はギターを弾くんだって?」
「はい、そうです。それが、何か?」
「では、この帽子をプレゼントしよう」
「あ・・・はい」
「これをかぶって、注意深く自然の声を聞くといい」
見たところでは、薄汚くボロボロで、とても頭に被る気はしない。
それでも、アンドレスの手が勝手に、そう手が自分の意志とは全く別に動いて、ボロ帽子を頭に着けてしまいました!

頭の上、大きな木の上から、どこかで聞いたことのあるメロディーが聞こえて来る。
「ヘンデルのガヴォットだ!」

辺りを見渡しても人の姿はない。もちろん木の上には小鳥が忙しく飛び交うだけ・・・・。
小鳥が飛び交う・・・・・。
小鳥が・・・・・・。
アンドレスは急いで帽子をとる。
木の上で一羽の小鳥が長いさえずり繰り返している。
ぴ〜〜、ぴ〜〜〜〜、ピ、ピ、ピ〜〜・・・・・
やがて仲間の小鳥が加わって、忙しく鳴きだす。
アンドレスは再び老人からもらったボロ帽子をかぶる・・・。
「これは・・・・、聞き耳頭巾!」


●語り部と賢者・・・・2
ボロ帽子をかぶったままアンドレスは大木に耳を付けてじっと聞き耳をたてています。

「なんということだ! この木の中からバッハが聞こえる。」
葉っぱが風に揺れる、小川の流れ、羽音。自然の出す音はもちろん、草花の中に入って耳を澄ませば、そこは旋律の宝庫! 和声の山。 

一羽の鰈がひらひらと舞う。
近づいてみると、聞いたことのない素朴なメロディーが・・・・・
「なんということだ! まるで大きな紅バラの奥にある音の蜜蔵にいるみたいだ!」

そうか! そうだったのか!
我々の身体に沁み入るあの名曲は、この声だったのか!
すると、彼らは、この声が聞こえる者・・・。
作ったものではなかったのだ。

椅子の本当の姿を見たピカソ。
人間の本当の姿を見たロダン。
木の中に仏を見出した仏師。
全ては賢者の成し得た作品。

演奏家だって同じ。作品の中に、自然の声が聞こえないのに楽譜から音を出すのは「音出し家」であって「音楽家」ではない!
アンドレスは薄らいで行く意識の中で、自分の成すべき仕事、修練をはっきり自覚しながら、現実の世界に目覚めた。


それから、40年以上が経った。
アンドレス・セゴヴィアは一人の生徒にレッスンをしていた。
「そうじゃない!そんな音じゃあない。」
「先生、私にはこれ以上の音は出せません。」
「音楽は自分の出した音で考え、感じているんだ。だから、もっと、もっと、もっと音を磨きなさい」
「でも・・・・」
「その程度の音からは、nothing come out!」

    アンドレス・セゴヴィア  完


●あとがき
え〜〜〜、突然終わりました。
まあ、なんです、だいたい私がこんな大それた題名の物語を書ける訳がない!
それは、よ〜〜〜〜〜〜く解かっております。

しかし、です。
書かなければならない!という衝動に駆られました。
「最後は聞き耳頭巾かい!」
とガックリした全国約5名の読者には申し訳ありませんが、
これも私が実際に経験したことなのです。
ただし、対象は鳥や木ではありませんが。

セゴヴィアさんの謎を解け!という声。
その命題を心の声で受け止めてから、30年以上経ちます。
その間に、ギターは生音からマイクを通した音が普通の時代になってしまいました。
レコード(CD)は全て音に加工した音。etc.etc.
言い出したら止まらない愚痴の山。
それは、自分の志と違っているだけ!
ギターの好きな人,それぞれが、それぞれの道を歩いているだけ。
「♪〜分かっちゃいるけど、・・・・」

そして、何も出来ない自分。
もどかしい!
自分が賢者の道を歩き始めたらいいのに・・・・・
その勇気がない。
語り部になって啓蒙する実行力もない。
中途半端な生き方なのだが、「揺らぎサウンド」を発見してしまった!
この事実は?
と考えた時、虹人物語とセゴヴィア物語、そして、もう1つ「あるギタリストの物語」を書く構想が出来上がりました。
最後の物語は、誰にも読まれることなく・・・・・いや、たった一人だけが読む物語として、すでに秘密のブログで連載しています・・・。
読みたい人は・・・・・・・ん!
あ、そりゃそうだ・・・・・失礼しました。
そんな物好きはいませんわ・・・。

ほな、   また。


●付けたし
印刷に出してもいいように、
只今、イロイロと作業中です。

ま、近いうちに完成させます。

改めて読んでみると・・・・・オモロイやないか!
順次、校正をしていきます。


●飽きるほど書きましたが、これからも書き続けます。
最近、会う人ごとに言う事があります。
「本当に心の中の声、聞こえませんか?」
「耳から聞こえるのではありません。頭の中で鳴るのです」
「音だけの時もあります。コン!という鋭い音です」

今はどこの家でも電子音がアチコチでしますね。
冷蔵庫をちょっとでも長く開けると「ピピピピ・・・」
洗濯が終わると、正確に10回ピ〜ピ〜・・・・。ご飯が炊けたといっては「ピッピコピ」

こんなやかましい音ではありません。

それと、口がかってにしゃべる!
たぶん精神病の一歩手前かも知れません。
でもね、芸術ですよ。
一般常識から芸術が生まれたことありますか?
こんな歴史的大事実があるのに、何故??一般常識で芸術を解釈したり、論じるのか・・
私には全く理解出来ません。

同じように、偉大な芸術家アンドレス・セゴヴィアを単なるギター弾きだと思わないでほしい。
真の芸術家です。好き嫌いで話してほしくない。
私が書いたセゴヴィア物語。これが本当の彼の姿です。

みなさん!
自分を見る。自分を感じる。ここからしか始まりません音楽は。
一般常識は全て捨て去る!
ゴミだと断定してください。
大事な物もある・・・・なんて思わないで、捨てる。
捨てたら、必ず入ってきます!
もっと大事なものが。

私は先週、私にとって1番大切なものを亡くしました。
俗に言う「心の中にポッカリ穴が空いた」状態です。
次のステップに必要なもっと大事なものが入る場所が出来ました。

今までなら見過ごしてきた「偶然」が今は全て「加代では?」と思えます。
つまり、偶然は断じて偶然ではありません。
誰かが、私に発しているメッセージです。

私のHPに偶然来た方。
偶然でしょうか?


●なぜ?セゴヴィアはナイロン弦に?
何故? ガット弦をナイロンに変えたのか?
爪を使ったからか?  違う!
彼は爪は使ったが、爪で弾いたのではない。

では、何故?
オーガスチンが「スゴイ弦」を作ったから、ではないか?

私たちの知らない「スゴイ弦」

スゴイ弦は世界でたった一人だけに使用された!
そう考えたら、納得する。

ところで。ここで大事なことがある。
どちらが優れているか? を考える基準。
解かりますか?
簡単ですね。
黒船が日本に来た時のことを思い出してください。
日本からは外国に行く船などなかった。
しかし、アメリカからは簡単に日本に来た。
どちらが進んでいたか?

同じように、宇宙人が地球に来ている・・とする。
地球は今、やっと宇宙・・・・それも地球の周りに出ていける。
しかし、宇宙人が地球に来ているなら、はるかに向こうが進んでいる。

ギターも同じに考えると簡単、単純!
ギター音楽の捉え方!
この捉え方を感じること。
考えることではない。

感じることから始めた人間は、自分から始めた人。
考える人は、他人から始めた人。
人間は考える葦である!
これは大間違い!

人間は本来全ての感覚を持っていた。
例えば、テレパシー!
感じたことを瞬時に相手に伝えるテレパシー。
これは、実は、時間をも超える!!のです。

私に時々起こる現象です。
レッスンではほぼ毎回。
ギターを道具として捉えている限り、感じません。
ギターで自分と向かいあうのは、個人の問題です。
私はセゴヴィアという人のギターをきっかけに、彼の音楽を全て自分事として感じてきました。
だから、「セゴヴィア物語」を書けました。
こんな物語を書ける! 
ということを、いつか世界のギター界が「ああ! そういうことか!」と解かる日が必ず来ます。

そして、その時は私のメソッドが実用化されている時です。

初めの疑問です。なぜセゴヴィアがナイロン弦に変えたか?
それは、タッチです。
ナイロンでもガットの表現が出来るタッチを発見したからです!
そして、たぶんですが・・・・・それは説明出来ないタッチだと思います。
そのタッチに一番近い男・・・・・それがナギ君だと思っています。

今は、ギタリストとは言えないナギさんですが・・・・
 



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